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――漁師が島を発見し、数日後の神釣島。午後一時。
巨大な黄色の毛玉を追いかける、聖女の姿が海岸にあった。
「ぽみょ~ん♪」
「あぁ、そっちへ行っちゃだって言っているのにもぅ~」
ヤマトさんに食材の調達を任されて数日、色々な食べれる物を発見しちゃった。
お城にいた頃じゃ、考えもつかないほど毎日が楽しい。
もちろん不便もいっぱいあるし、森の奥には何か怖い気配もする。
今もそんな状況だったけれど、エマージェちゃんが居てくれるおかげか、すぐに気配が森の奥へと消えちゃう。
だから感謝の気持ちをこめて、おっきな黄色いひよこさんへと抱きつく。
「ありがとエマージェちゃん! ふぁぁ。もふふわで気持ちいい~」
「ぽぽぽみょん♪」
もっふりと埋まること、四十センチくらい。
もふもふな体毛のせいか、意外と中がすずしく、外より温度が低い。
そんな事を思っていると、エマージェちゃんが私を抱きかかえて海辺の岩の上へと来る。
「ピヨピヨピヨピヨピヨ」
「わぁ~本物の鳥さんだぁ」
日に何度かエマージェちゃんは突然鳥にもどる時がある。
それを見た、わん太郎ちゃんが「あざといワン……」と、ジト目を向けていたのが、また可愛かったかな。
そんな鳥に戻ったエマージェちゃんの懐の中から下を見る。
すると以前から気になっていた、不思議な草に気がつく。
海水がかぶる岩場に自生しているのもビックリだけど、三角形の特徴的な形もなんだか知っている気がする。
「ん~? 何だったかなぁ……エマージェちゃんも、今は鳥さんになっているし……」
つぶやきながら、コッソリと抜け出して足元の珍しい草を採取。
それを浜辺の木陰まで持っていき、じっくりと見てから「今ならヤマトさんも居ないし、いいよね?」と自分へと言い訳。
遠くにエマージェちゃんを見ながら、胸の聖石へと意識を集中し、封じていた聖女の力を開放する。
「閉じし聖印の力、今こそ光を取り戻せ」
すると一瞬にして聖女の力の根源たる、神聖力が体中に戻る。
さらにもう片割れの聖石と力がリンクした感覚で、思わずびくり。
「……? あれ、結構近くに聖石がある感覚だったけど……まさかね。っとそれより、さっそくこの草の正体をっと」
公にはしていないけれど、私が聖女の力を使える時だけに使える、もう一つのスキルがある。
それは過去の聖女たちが蓄えた、膨大な経験の歴史。
それらが詰まった知識の書庫へと、アクセスする事ができる。
このスキルの存在は秘匿とされており、その理由は悪しき者にその存在が知られると、悪用されるとの理由からだ。
「えっと、〝第一聖書館開放〟司書さんおしえて、この葉っぱはなぁに?」
両手を組み、そう願う。
すると目の前に小さな神殿が現れ、そこから気だるそうなお姉さんが出てきた。
「なぁ~に? アタシ、昨日呑みすぎで頭痛いんだけどぉ?」
「あぅ。ご、ごめんなさい。えと、コレで治ったかな?」
右人差し指を差し出し、指ほどの大きさの彼女の頭へ癒やしの魔法を振りかける。
白く温かい光は、一瞬で司書さんを包み込み、二日酔いを癒やす。
「あぁ~これはいいわねぇ。今度二日酔いになったら頼むわよ。で、どうしたの?」
「えとですね、この葉っぱの正体が分かりますか? 前に何かの本で見た気がするんですけど、思い出せなくて」
まじまじと葉っぱを見つめた司書さんは、「あぁ」と言った後に答えを話す。
「そいつは海傘草って言って、ポーションの素材だね」
「ポーションの素材? でもあれは針葉草を煮詰めて作るのでは?」
「それは緑色のノーマルポーション。いいかい小娘、その海傘草は単体で〝エクスポーション〟になるのよ」
その言葉の意味が理解できずに、「え?」と聞き返す。
だってエクスポーションと言ったら、ノーマルポーションの百倍は効力があり、ダンジョンで稀に見つかるか、古代遺跡で偶然発見できるレベルのものだったのだから。