「あぁもぅ、そんなに転がるなよなぁ。糸が絡まって取れなくなるってば!」

 ころころ転がるデカイヒヨコ。見た目はかわいらしいが、サイズが凶暴だ。
 モフっとしているが、ひかれたらどうなるのだろう?

 そんな事を思いながら、絡まった釣り糸を解く。
 自由になった瞬間、「ぽみょ~」と喜び転げ回っていた。

「ええい、ホコリが舞うから大人しくしろ! 飛ぶか歩くかどっちかにしろよ!!」
「あざといワン……」
『しかし主よ。こんなヒヨコが神の兵器なのでしょうかね?』

 その事に疑問におもいつつも「さぁ……」としか言えなかった。
 相棒とそんな事を考えいると、突如走ってきたデカヒヨコが、アリシアへと突撃してきた。

「ま、まさか。始めから狙いはアリシアだったのか!?」
「え……キャアアア!」

 デカイのに機敏な動きでアリシアへと襲いかかるデカヒヨコ。
 あっという間にアリシアの姿が消え去り、次の瞬間――。

「――キャアアア!? ふわっふわで、きもちぃぃですよ! しかも、もっちりで面白いです♪」

 見ればアリシアは、黄色い毛玉の中に抱きつき、ふわっふわで、モッチモチな感触をあじわっていた。オイ、俺の心配を返せ。

「ふぅ……心配させやがって。って、なんでそんなに懐かれているんだ?」
「さぁ? 私が美味しそうにみえるのかな……あの、ひよこちゃん。私を食べないでくださいね?」
「ぽみょん♪」

 ヒヨコの腹の上に埋もれるアリシア。
 子供が遊ぶ姿が実に楽しそうで、おじさんホッコリしちゃう。

「色々とすごい光景だな……」
「あざといんだワン……」
『ですね……。それはそうと主、このケダモノ二号に、なんと名前をつけるのですか? 飼うにしても、名前があったほうが良いでしょうから』

 名前か……そうだな。見た目が黄色いからな。

「なら簡単だ。〝銘菓〟でどうだ?」
「〝ひよこ〟だからってソレは無いんだワンよ」
「ぬぅぅ、なら〝スクランブルエッグ〟はどうよ?」
『ぐちゃぐちゃのヒヨコぽく聞こえますが』
「もうカッパ巻でよくね?」
「黄色の要素がどこにもないんだワン」
「オマエラ文句ばっかだな」
「『ネーミングセンスのなさが問題だと思う』」

 なんと言う失礼なヤツラだッ!?
 よろしかろう。俺の本気を見せてやろう。
 そもそもデカヒヨコは非常食ワクで飼ってやるのだ。

 ならコレしか無いと、俺の銀鱗色(ぎんりんいろ)の脳みそがささやく。

「エマ……そう、あのデカヒヨコの名前は、〝エマージェ〟に决めた!!」

 次の瞬間だった。
 エマージェと名付けたデカヒヨコは、ブルリと震えると、頭の上に付いていた白い殻が吹き飛ぶ。

 そのしたからニョキリと生えてきたのは、大きな一本の羽。
 それがまた美しく、文字に似た記号が真ん中に浮かび上がっていた。

「ぽみゅ? ぽ……ぽみょぉぉぉぉ!?」

 アリシアを背中に乗せたまま、両方の羽で頭を触る。
 そこに不思議な物を発見したように、バタバタと大暴れしてしまう。

「わわ。落ち着いてください! どうしたんですか、ひよこちゃん?」
「なんだ? 今度は突然ガクリと項垂れてるぞ……」
『何かよほどショックな事があったのでは?』

 三人で不思議そうに見ていると、わん太郎がエマージェと何か話していた。

「えええ~? それは本当なのかワン?」
「ぽみょ」
「まぁその名前はたしかにだワンねぇ……」

 納得しあっているのか、ケモノなフレンズ同士通じるものがあるのだろうか。
 不思議そうに見ていると、わん太郎が俺に向き直って話す。

「んとねぇ、大和が正式な主なったんだって言っているんだワン」
「え!? どうしてまた?」
「名前付けたからだって言っているワンよ」

 そこにアリシアがやってきて、俺にヒヨコの名前を聞いてきた。

「それでヤマトさん、なんて名付けたのですか?」
「フフン、聞いて驚けよ? 実にスタイリッシュなネーミングだぞ?」
「わぁそんなにすごいんですか!? それでそれで?」
「コホン……発表します。コイツの名前はエマージェだ! どうだカッコイイだろ?」

 それを聞いた相棒は『まさか……』と呆れて話すのだった。