「な、なんだアレは……」
元々ひろい滝つぼだったけど、あんなモノは無かった。
あんなモノ……それは月明かりに照らされて浮かび上がった滝の裏に、大きな洞窟が出来ていた。
その洞窟の奥から出てくる大きな影が、滝の向こう側で〝ヴァサリ〟と巨大な羽を広げ、「う゛ぉ゛み゛ょ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」と叫ぶ。
あまりにも威圧力がある叫び声に、思わずアリシアの前に出てかばう。
「わ、私がお姉さんなんだから、ヤマトさんは後ろへ下がっていてください!」
「いいからジットしてろ……今は動くなよ……」
あのお気楽なわん太郎でさえ、俺の全面に出て今にも飛びかかりそうな姿勢でいる。
コイツの力は薄々気がついていたが、やはり相当ヤレルらしい。
「大和ぉ、今のワレなら速さで撹乱できるから援護するんだワン。だからして、大和は好きなようにしてぇ」
「了解だ、前衛は任せる」
とは言ったものの、ますます強まる威圧力に半歩後ずさる。
脂汗が額に浮かんだと同時に、相棒が『来ますぞ!!』と叫び、次の瞬間ヤツ――四聖獣の一角が姿を現す。
巨大な羽を広げたまま滝を割って出てきた巨体は、全長五メートル。羽を広げればその倍はありそうか。
全身は黄色く、頭には白く硬いもので覆われている。圧倒的なヤバさが伝わってくるが、どうしようない。
「クッ、出てきたぞ!!」
そう俺が叫んだと同時にソイツが、ヴァシャリと滝から出ようとした次の瞬間、頭上から岩がくずれ落ちてきて、四聖獣の頭へと直撃!!
ヤツは「み゛ょ゛ぉ゛!?」と言いながら、滝つぼに……浮かんだ……。
「………………え゛え゛え゛!?」
『これは一体……?』
「マヌケなヤツなんだワン……」
あまりの展開に驚いていると、滝にもまれてクルクルと回り出す。
表になった四聖獣を見てアリシアが叫ぶ。
「み、見てください! すっごくおっきなひよこちゃんですよ!?」
月明かりに照らされ見えたのは、ギャグマンガみたくグルグルと目を回している、馬鹿デカイヒヨコがいた。
水に濡れているのに撥水加工されたヌイグルミみたいに、ふわふわのまま水面へと浮く。
よく見れば、縦横ない体型で、まんまるな黄色い毛玉にしか見えない。
しかも胸には真っ赤なハートマークとしか思えない毛が生えていて、あざとさ全開な姿だった。
「マジかよ……どう見ても特大サイズのヒヨコだぞ」
『これが伝説の四聖獣? え、冗談でしょう?』
「でも見てくださいよ、なんだかとっても可愛らしいですよ?」
「あざといワン。あざとすぎてヘドが出るんだワン」
わん太郎よ。存在自体があざといおまえが言うなし。
それにしてもなんだろうか。この黄色い鳥を見て俺は思ったね。キュィンと閃いた。
「なぁ、おまえらさ……メシは最近魚ばっかりだろう?」
「そうだワンねぇ」
「ええ、そうですね。それがどうしたのです?」
相棒を握りしめ、魔釣力全開でライン強度最高にしてから、ゴッド・ルアーをデカヒヨコへ投げる。
低くニチャリとした表情を浮かべつつ、「鳥だけど、ふぃぃっしゅ~!」と言いながら、軽く釣り上げ足元へと落とす。
その衝撃で目覚めたのか、「ぽみょ?」とおかしな声を上げるヒヨコをバックにしつつ、左親指をヤツへと向けて告げる。
「肉、食おうぜ?」
その意味が分かったのか、毛玉ヤロウは「ぽみょおおおおお!?」と涙を流して、短い足をパタパタとさせる。
どうやら人語が分かるらしいが、弱肉強食ゆえに許せ。
まずはスタンダードに焼き鳥からと思ったら、アリシアが「だ、だめですよ! ひよこちゃん泣いてるじゃないですか!?」と言う。
「ええ~、焼き鳥にして食おうぜ? 絶対に美味いやつだよコイツ」
「みょ~みょ~ぽみょみょぅ……」
「ふむ……大和ぉ。デカひよこがね、ぼくは悪いひよこじゃないから食べないでって、言っているんだワン」
『なるほど。獣同士、意思疎通が出来るんですね。どうします主?』
「そっか……わかった。その気持をくんで焼き鳥はやめて、チキンステーキにしてやろう」
「ぽみょももももも!?」
「もぅ! ほら鼻水まで出ちゃって可哀想に……」
「なんだか、ばっちぃから食べたくなくなったんだワン……」
そう言われるとなんだかデカイし面倒になってきたな。
それになんだ、意外と見た目は可愛いし……んんん。
「チッ、仕方ない。お前は非常食ワクで飼ってやる」
そう言うと、とてもうれしそうに「ぽみょん♪」と鳴いて、コロコロと地面を転がった。