しばらく一人で絶景と湯を堪能していると、小狐様がやってきた。
「んぁ~きっもちいいんだワンよ~。特にワレのお口から出るお湯がジューシーだワン」
「おい、わん太郎。あっちへ行けよ、おまえが来ると湯が冷める」
「工エエェェェェエエ工!? ひどいんだワン」
「ふふふ。わん太郎ちゃん、こっちへ来てもいいですよ?」
「んぁ~人でなしの大和よりも、ゾンビ娘に癒やされるだワン」
そう言うと、わん太郎は仕切りを乗り越えて行く……が。
「え……キャアアア!?」
「うわわわわ!? なんで壊れたんだワンよ!!」
わん太郎が乗り越えた場所。そこは丁度仕切りのつなぎ目の所であり、そこの結束部分の釣り糸を、爪で引き裂いたようだ。
お陰でバラリと仕切りが崩れ落ち、悲鳴と共にアリシアが真っ赤な顔でこっちを見て叫ぶ。
それをチラリと見て俺は思ったね。やっぱり風呂ってのは一人で入るものだって。
「はぁ……一日の疲れがどっと出たわ……」
「ちょっとヤマトさん! なんでそんなに死んだ顔で海をみているんですか?! 普通はわ・た・し! そう、海より私を見て赤面する場面じゃないんですか!?」
おじさんねぇ……子供には興味ないのよ。
『主よ。ゾンビ娘はお年頃らしいですぞ?』
「人は一年中、発情期というからして」
「お年頃はそうだけど、色々違いますぅぅぅ!!」
夕暮れの海という絶景はどこにいったのか?
そう思えるほどに、五月蝿い子供・竿・駄犬を尻目に俺は固く誓ったね。
「明日から一人で入るとしよう。うん、絶対そうしよう」
そう思いながら、今晩の晩ごはんは何にしようかと考えるのだった。
◇◇◇
◇
――時は戻り七時間前。神釣島の中心部にある朽ちた社内。
大和がこの世界に来てから遭遇した。超・自然現象の極たる事態が。人知れずに今また起きていた。
『【緊急警告】大聖女。ガ。神堕ノ滝壺。デ。復活。ノ。祈リヲ捧ゲ。マシタ。コレニヨリ。神兵No:01――黎明ノ煉獄。ノ。解凍シークエンス。開始。完了:マデ。八万六千四百秒』
『【特:緊急警告】封印状態。ガ。不完全。ノ為ニ。〝調律ノ揺リ篭〟。ノ。破損。ヲ。確認。修復作業ヲ文殊システム。ヘ。判定依頼』
『文殊Ⅰ:修復不可 文殊Ⅱ:修復不可 文殊Ⅲ:修復不可』
『文殊ノ回答。ニヨリ。神兵No:01――黎明ノ煉獄。ノ。完全復活。ガ。不可ト確定』
『〝理〟ニヨル。審議中……審議中……審議中……回答。黎明ノ煉獄。ノ。特性ニヨリ。不完全体。ノ。リリース確定。開放。マデ。一万三千七百五十秒』
不気味に続くカウントダウン。
それと同時に、天井に描かている〝禍々しい赤く燃えゆ怪鳥〟に色味が増す。
まるで生きているかの如く、時が経つほどに色・ツヤ・質感すら感じれるほどに生命力を増していった。
◇◇◇
◇
――時は戻り、大和たちが風呂から上がり、楽しく食事をしてから数時間後。
午前零時ほどに、禍々しい凶鳥が古の封印を喰い破り、殻を破って出てくる……。
その凶鳥は、過去の愚かな知性体を葬り、駆逐し、蹂躙した神の生体兵器である、四聖獣の一体――〝黎明の煉獄〟が眠りから覚め凶暴な姿を現す。
それは異様。まさに怪異。いや……神罰が形となって現れた、天の副音そのものだ。
しなやかな体から生える二足は、まるで古代の王者たる恐竜がそのもの。
さらにそこから枝分かれする足の先に、大地をも引き裂く鋭い爪が獲物を欲す。
忌々しい封印たる殻を、あっさりと粉々にし、ゆっくりとその姿を現し大地を穿つ黄金のくちばしを開く。
そして宣言するのだ。〝世界の終焉が来たのだ〟と!!