「それなのだが……エリザベートよ、左ほほに違和感を感じぬか?」

 ヴァルマークにそう言われ、エリザベートは頬を触る。
 それでハっとしたのか、その意味を私にも分かりやすく話す。

「これは……ええ確かに少し前に、魔女からの呪いの残滓(ざんし)みたいな物を微妙に感じ、不快でしたが、今は消えていますわ」
「さもあろう。実はな、不埒者(ふらちもの)の報告の知らせを聞き、我らの禁忌ともいえる事を試したのだ」
「なッ?! あ、兄上様まさかあの魔女へとまた良からぬ企てを!?」

 馬鹿も極まるアホウな男。そう思ったが、次の言葉で少しは頭が回るようだと思い直す。

「うむ。財宝を盗んでやると、強く念じたのだ。その結果、あの呪いがあった左頬周辺から、じんわりとした違和感を感じたのだ」
「なるほどなるほど。両殿下がお感じになったその違和感の正体……つまりあの〝汚れた聖女が生きている証〟と言えましょうな。聖女が死ねば、呪いは解呪となるはずですのでな」
「しかり! その通りよ。なればあの魚鱗の聖女も生きておろう。まぁ今頃は、激痛でのたうち回っておるだろうがな」

 その言葉で、姫殿下が胸へと手を添えて話す。

「そしてなによりも、ワタクシの胸にまだ聖石がやどっていない……それはやはり聖女の地位を私から盗んだ、泥棒(アリシア)が生きているという事ですわね」
「オルドよ。まずは大聖堂より聖石の片割れを借受け、その光の指す方角へと向かえ」

「おぉ、それは妙案ですな。確かに聖石は一定の距離が離れると、互いの位置を指し示すために光をだしますからな」
「探せぃ……探し出すのだオルドよ! 草の根わけても探すのだ!! なんとしても、この不快な呪いを解呪させるために、魚鱗の聖女を処刑せよ!!」
「はっ……御心のままに」

 頭を一つ下げ、両殿下へと挨拶をし部屋を出る。
 長い廊下を歩きながら、私の手の内で踊る馬鹿な三兄妹を思うと笑みがこぼれてしまう。

「踊れ踊れ、踊り狂って破滅するがよいわ」

 低くうなるように(わら)いつつ、大聖堂へと足を向け、この帝室の最後も近いと予感するのだった。


 ◇◇◇
  ◇


「よ~っし! そのまま抑えていてくれよー!」
「はい! こっちは大丈夫ですけど、ヤマトさんこそ足元に気をつけてくださいよ!!」

 あれから数日が過ぎ、アリシアも落ち着いた事で、いま俺たちが一番欲しいものを作ろうとしていた。
 それは風呂だ! 日本人たるもの、アツイ風呂に入りたい。

 だから滝から俺が具現化したパイプを使い、水を引いて自由に使えるようにしようとしていたのだが……。

「はいよ~って……うわあああッ!?」
「キャ!? ヤマトさん!!」

 滝の水が取れそうな場所へと、岩を掴みながら登っていると、足場の岩が突如崩れ落ちた。
 真っ逆さまに頭から落下し、相棒を持ってない事に気が付きゾっとした。
 相棒がない状態ではただのガキ。

 そんな状態なら何も出来ず、そのまま滝つぼへと飲み込まれてしまった。

「あわわわ!! 大和が落ちちゃったんだワン!」
『主! だから一緒に行くともうしたのに!』
「わ、私に任せてください!!」

 いまだ滝に揉まれている俺は平衡感覚すら失い、洗濯槽の中のくつしたな気持ちでもがく。
 苦しみ手を差し出すと、力強く温かい何かに引っ張られた。

 次の瞬間、一気に体が浮き上がり、肺いっぱいに酸素を吸い込めた事で生き返る。

「プッハッ!? た、助かったあぁって、痛っぅ!?」

 落ちた時に岩にでも当たったのか、背中を強打したみたいだ。
 思わずそれに苦痛の表情を浮かべるが、突如柔らかい感覚が背中から押し寄せ「無事でよかったあああ」と半泣きのアリシアの声がした。

「んな!? アリシアか!! びっくりしたなぁ。でも助けてくれてありがとうな」
「もう、無茶しちゃだめですよ? ヤマトさんに何かあったら、私……うぅ」
「おいおい、泣くなってば。でも本当に助かったよ、とりあえずあがろうぜ?」

 それに「はい!」と元気に応えると、岸へから上がっていく。
 それに俺も続く、が。妙なことに気がついた。