誰もいないコテージの部屋から見える、夕暮れの海辺は少しさみしい。
でも呪われた顔の痛みを忘れさせてくれる、気遣う潮風が私の心も痛みも癒やしてくれる。
優しく純白をオレンジ色に染め上げる太陽にひかれ、自然に足がバルコニーへと向かう。
まだ何もない殺風景な空間だけれど、この景色は贅沢だなと心が踊った。
「きれい……ずっとここに住みたいな……」
なんだろう。自然と涙がこみあげてきた。
胸があたたかくも、たくさんの感情に満たされていくその感覚に戸惑っていると、その理由が初めてわかった。
「……そっか……私、今しあわせなんだ……」
城では毒見というなの嫌がらせで、冷たいものしか食べたことのなかったけれど、生まれて始めて食べる温かい食事。
みんなで楽しく食卓を囲む小さなしあわせ。
くだらない事で笑いあえる友人。
見ているだけで笑みあふれでる輝ける光景。
その全てが、私のもつ聖なる光よりも眩しく世界を彩る。
「だからさっき泣いちゃったんだ……」
二匹目のお魚をたべようとした所で、突然胸がいっぱいになって涙が流れ落ちた。
自分でもその理由はわからずに、しゃくりあげ泣いた。
それを見たヤマトさんは隣に前を見たまま座ると、「何があったのかは知らねぇけどさ、人間泣きたい時は泣けばいい。ここはアリシア……お前の友達しかいねぇんだから、な?」と、やさしく肩を数度叩いてくれた。
その言葉で何かが決壊した。
聖女として生きることを強いられてきた私だったけど、その一言で全てが報われたきがした。
十六歳にもなって、みっともなく大声で泣く私を、ヤマトさんは黙って聞いてくれた。
わん太郎ちゃんも、しずかに寄り添ってくれたし、ワーレン・シャール・ロッドマンさんも、とても落ち着く香りがするハーブを先端から吊り下げてくれた。
「あんな大声で泣くなんて……うるさくしちゃって申し訳ないな」
そう言ってから思い出す。
「あぅ、そうだった。申し訳ないとか思うの禁止って、ヤマトさんに言われたばかりだったよぅ」
泣き止んだ後に、ヤマトさんにそう言って謝った。
そしたらそう言われて呆れられたっけ……。
「はぁ……私って本当に暗い子だよね……っていけない! もっと前向きに生きよう、うん!」
そう言ってから自分が聖女だという事を思い出す。
私が生きている限り、新しい聖女は生まれない。
「この胸の中にある聖石があるかぎり、どこにいてもまた……」
だからこそ、近いうちに聖女の力を欲する、姉上がまた私を殺しにくるかもしれない。
そう思うと震えがきてしまうが、遠くにヤマトさんたちが返ってくるのが見えた。
頭にわん太郎ちゃんを乗せ、片手に大きなお魚を持ち、「大漁だぞ~!!」と手をふるのが見えて、そんな重い気持ちを忘れて全力で手をふりかえした。
◇◇◇
――次の日の朝、俺たちは回復したアリシアと、エメラルドの滝つぼに足を浸しながらヤシの実ジュースを飲んでいた。
「だから気にするなって。昨日も言ったけど、いつまでもいていいぞ? ばあさんになったらそこに埋めてやろう」
『主、せめて亡くなってからにしてあげてください』
「そ、そうですよ!? それにまだ十六歳ですし、おばぁちゃんにはまだ早いです!!」
「そういうものかねぇ……」
「そういうものだワンよ」
なぜか駄犬にまで呆れられた俺。ちょっと可哀想すぎる。
そんな他愛のない話しを午前中ずっとしていた時、アリシアが突如苦痛の声を上げてうずくまってしまう。
「ど、どうしたアリシア!? ヤシの実ジュース飲みすぎたのか?!」
『主じゃあるまいし違いますよ。これは……ゾンビ娘から強い魔力というより、呪力を感じます』
「呪力だと? どうすりゃいい相棒!?」
パニクる俺の腕にアリシアがつかまる。そして「大丈夫だから、ね?」と脂汗をうかべて微笑んだ。