「どうした? そんな死んで蘇ったみてぇな顔してさ。ほらほら、ノド乾いてるんだろう? いっぱいあるから飲めよ」

 そう言いながら私に見たこともない実(・・・・・・・・)を手渡してきた。
 ずしりと重く、コレをどう飲んだらいいのかが分からず困っていると、「上のストローから飲むんだよ」と教えてくれた。

 言われたままに、そのくだ――彼はストローと言っていたけど、ストローに口をつけて吸ってみた。
 ふんわりと甘い香りがし、次の瞬間には爽やかでとても体の芯までしみわたる美味しさ。
 
 そして驚いたのがその実の中身が冷たく、この実の旨味をさらに押し上げていた。

「お……いしぃ……」
「だろう? 若いのに、そんなにカサカサになっちまって可哀想に……ほらほら、もっとグィ~っと飲みねぇ。いっぱいあるから、ゆっくりと飲むんだぞ?」

 木の実ドリンクが体の隅々までしみわたる。それがよく分かり、干からびた体に活力が戻るのがわかった。

 でもソレ以上に、彼の言葉のあたたかさが身にしみて、本当に嬉しくて、うれしくて、乾いているはずの瞳から涙があふれでてきちゃう。

「んぐ……ふぇ……ふわぃ……」
「ぬぉ!? 泣くほどそんなに美味かったか? それは良かったな。腹も減ってるだろう? 今メシも用意してるから待ってろよな」

 お礼を言いたいのに、次々と優しい言葉をかけてもらえた嬉しさで、のどが詰まって声にならない。
 みっともなく「う゛ん゛」と何度もなんども頷きなら、木の実ドリンクを必死にのむ。

「いい飲みっぷりだねぇ~。やっぱ水じゃなくて、ヤシの実にして大正解だったな」

 とてもニコニコと私の顔を見ている彼。年下みたいだけど、言葉に余裕を感じるから不思議。
 一気に全部呑み干したと同時に、部屋の入口から可笑いらしい声が聞こえた。

「んぁ? ゾンビ娘復活したんだワン?」

 その姿に驚きと感動。本当にそれしか言い表せない。
 だって小さな青白いモフモフが、手に何かをもって歩いて来たのだから。

「わん太郎ちょうど良かった。いまゾンビ娘が起きたばかりなんだよ、だから焼き魚(ソレ)をくれ」
「ええ~? せっかく焼き立てを食べようと思ったのにぃ。しかたないんだワンねぇ、ほれぇ人を貪るまえに、さかなを貪るがいいんだワン」

 そう言うと、ふしぎな小さなモフモフは、少年へと魚を渡す。
 たしか焼き魚と聞こえたけれど、どんな味がするのかな?

 そんな事を思っていると、彼が右手に持ったそれを目の前に差し出す。

「ほら、コイツも食ってみろよ。コイツも自慢の一品でさ、最高に美味い焼き魚だぜ?」

 ニカっと白い歯を見せて、とても楽しそうに微笑む彼から、おそるおそる魚の丸焼きを受け取る。

 話には聞いた事があったけど、一匹まるまるの魚を初めてみた驚きで、また感謝の言葉がいえなかった。もう本当にはずかしい。

「あ、あの」
「話は後だ、温かいうちにかぶりついてみろよ? 冷めると味が落ちるからな」
「えと、はい。え?」

 これしか言葉が出なかった。くちびるにふれた瞬間、魚料理の熱さ。これにまず驚いちゃった。
 
「香りが……香りがおいしい? え……え?」

 口いっぱいに広がった鮮烈な旨味のある香り。
 初めての経験で、またしても言葉がおばかな子みたいになっちゃったよ。うぅはずかしい。

「だろ! そいつは島野管理釣り場で飼ってる香魚だ。すげぇ美味いだろ?」

 そう彼がいうけど、もう美味しくておいしくて、何度もなんども、みっともなく「う゛ん゛」と頷きながら、ほろほろ口の中でほどける極上の味にはまりこむ。

『いつから養殖所になったんですか。おっと、次そろそろいい具合ですよ?』
「そらいいね。じゃあ俺たちもメシにしようか」
「わーい、やっと食べれるんだワン!」

 そういうと彼は、話す不思議な棒を軽くふると、焼き魚が宙を飛び引き寄せらてきた。
 そんな不思議な魔法に見入っていると、あっという間に大きな葉っぱの上に焼き魚が並べられていく。