空間がバグったとしか思えないノイズ音が数秒聞こえ、その直後に始まる。
『御目出度ウ御座イマス。【告】 対象者:島野大和。ガ。神釣島ノ封印ヲ。解除。シマシタ。完全封印解除。マデ。アト。三百七十秒』
四方から聞こえる魂まで削られそうな恐怖と共に、この謎の現象に疑問を抱くより早く、「何なんだお前達は!?」と叫ぶ。
が、俺をまったく無視したまま、無機質な声は機械的にカウントダウンを進める。
『三百秒――【警告】 対象:島野大和ノ肉体。ガ。完全封印解除。マデ。保ツ事ガ出来。マセン』
「オイ! おまえら話を聞けよ! 一体何を言ってい――ッ?! ぐぅぅぅ体が痛てえええ!!」
『【告】 指ノ。傷ヨリ侵入シタ。神釣島ノ風土病。ニヨル。感染症ガ。超急速。発症中。肉体細胞ノ崩壊ヲ。確認。細胞ノ蘇生案ヲ模索中。回答マデ。アト。三・ニ・一・回答:無シ。』
体のあちこちが文字通り、聞いたことの無い音で悲鳴をあげ、胸も苦しくなり意識が飛びかける。
だがさらに続く悪夢は、俺を昆虫か何かが騒いでいるかの如く相手にもしない。
『致死率判定。ヲ。文殊システム。へト権限を移譲……文殊システム。ノ。回答:〝文殊Ⅰ:死〟 〝文殊Ⅱ:死〟 〝文殊Ⅲ:死〟 致死率が100%と確定。サラニ。打開策を模索。回答マデ。アト。三・ニ・一・回答:細胞崩壊ヲ利用シ。肉体改造ヲ。推奨』
意味がわからない。
ただわかるのは、体が異状に熱く、のどや関節が焼けるほどに痛い事だけ。
だからだろうか。陸に釣り上げられた魚の気分はこんな感じなのかと思い、それを味わえた事で少し釣った魚に親近感を感じる。
『文殊システム。ヨリ。権限ヲ再譲渡。【告】 対象:島野大和ヘ緊急クエスト。ヲ。発令。現時刻ヨリ二百一秒以内。ニ。神釣池ノ魚ヲ。捕獲。ノチ。生体器官ヘ取リ込ム事ヲ。強ク。推奨』
「ぐぅぅ……なに……を言って……いるッ!?」
そう叫ぶのも辛い。が、次の言葉で痛みが一瞬にしてぶっ飛ぶ。
『簡潔表現。魚ヲ。釣ッテ。食エ。以上』
「乗ったあああああああああああああ!!」
その言葉で迷わずそう叫ぶ。釣り人として、死ぬ寸前まで釣り続けるのはなぜか?
当たり前だ。そこに魚がいるのだから釣って釣って釣り死ぬまで釣り〆る!!
それを聞いた無機質ヤロウは、『エ゛!?』と初めて人間味がある一言をはっするが、すぐに元に戻りまた何かを言い出す。
『対象:島野大和。ノ。クエスト受諾ヲ。確認。【警告】釣具不足ノ。為。クエスト。遂行。不可』
「おい! ここまで来てそれはねぇだろ!? 今すぐ死にそうなんだから釣らせろ! 骨から砂になってもクエストをこなしてやるよ!!」
冗談じゃない。体が崩壊しつつあるのが分かるからこそ、痛烈に分かる。俺はもうすぐ死ぬ。だから絶対に釣ってやるッ!!
『ソノ意気ヤヨシ。神具ナンバー寿槌三十八。ノ。譲渡許可を〝理〟へ申請……【可】 此レヨリ天空の破片――ヲ。島野大和。ノ。執着心ノ強イ〝WSL〟ヘ変換シ。召喚。マデ。三・ニ・一・成功。対象:島野大和ヘ強制融合』
瞬間、脳天へと何かが強烈に刺さる感覚の後、左手に俺の半身が現れた。
そうだ、あの虹色に輝くロッドを持った感覚と同じ、最高に幸せを感じる満たされた感覚を。
だから目を見開きソレを見る。最高品質……いや、最特級品質のコルクを惜しげもなく使い、肌に吸い付くグリップを思わせる握り心地。
その戻ってきた感覚に魂がふるえ叫ぶ。
「魂が求めるアツイ思いに引かれて帰って来たのか!? 俺のWSL!! おれ……の……WS……え゛?」
手に持つそれは〝ただの木の棒〟であり、それが右手に不自然なほど馴染んでいた。
しかも先端からナイロンみたいな糸が出ており、その先が不自然に動いてる。
まるで生き物みたいなその動きに驚くが、その暇もなく謎の声が話す。