――悲劇のヒーローな俺が、神釣島の管理者になってから三日目の朝が来た。
 
 昨日はしこたま、ヤシの実を飲んで飲んで飲んだくれてやった。おかげでお腹が痛い。

「ぅぅ~ん。お腹が痛いんだワンよ」
「んぁ? 大和はだらしがないんだワンねぇ。そしてワレはそんなにマヌケに話さないんだワンからして」
『どっちも同じくらいマヌケですよ。ハァ~これで本当に人間を超えたナニカなのでしょうか』

「俺が聞きたいよホント。さてと、腹は微妙に本調子じゃないけど、腹が減った。ハラヘリの民は俺に労働を求めている!」
『はいはい、つまり釣りがしたいのですね』
「流石は相棒わかってるぅ~。それで早速だが……やっぱり釣りと言ったらあそこっしょ?」

 そう言いながら指をさす先にあるもの。
 それは宝石箱をひっくり返したと言う表現がピッタリの、通称ジュエリービーチと名付けた白い砂浜だ。

 その中でもまだ行ったことのない場所で、しかも間違いなく釣れそうな場所がある。
 遠くから見ると、まるで人工的に作られたとしか思えないほど、船着き場っぽい場所がそれ。

 だからこそ、気になる事があるから聞いてみる。

「なぁ相棒。おまえって海水でも使えるの?」
『フッ、愚問ですね。海水だろうがなんだろうが、どこでも釣ろうと思えば釣れます。あとは主の腕次第ですが、まぁそれは今更ですかね』

 なんてヤツだ。人生において第三位に言ってみたい台詞(セリフ)である、「フッ、愚問」をサラリと言ってのけやがった。
 
 ちょっぴり悔しい気持ちでいっぱいになったが、俺の人生で言ってみたい言葉の第ニ位は「フッ……奴は四天王最弱よ」である。

「となると、もう一人ほしいなぁ」
『何を言っているのですかいきなり? と、まぁそういうワケで何時でも釣る準備は出来ています』
「って事で決まりだ。さっそく海釣りに行こう♪」
「んぁ~おおきい魚釣れるかなぁ? 楽しみだワン!」

 そう言うと、わん太郎は〝ぽむぽむ〟と足音を鳴らしながら近寄ってくると、そのまま定位置(頭の上)に登って来た。なんてあざとい足音だろうか。

 ちなみに走ると〝ぽぽぽぽむ〟と鳴る。どうなってんだあの肉球?

「って事でいきますか。とはいえ、降りるのが面倒だなぁ」

 若い体とはいえ、精神的に上り下りが面倒だ。
 だからつい、プロの大人ってやつを魅せつける。こんなふうにな?

「魔釣力&MP釣お~けぇ」
『何をするんです?』
「こうするのさ、セイッ!!」

 相棒をしならせ、ゴッド・ルアーを目的近くのヤシの木へと放り投げる。
 直後、ルアーのフックがヤシの木へと突き刺さった事が伝わり、そのままバルコニーへと走り出す。

 わん太郎と相棒が「『あぶない!?』」と声を揃えるが、そんなのは知った事じゃない。
 そのままバルコニーから飛び出し、子供ボディーは中を舞う。

 一瞬ふわりと浮き上がった無重力を感じた後、急速に落ちる事でいろいろとヒュンとするが、ここからが本番。
 
 一気に木製になったベイトリールのハンドルをゴリ巻き。
 すると落ちていく体が一瞬止まり、今度は逆に空中を昇りだす。

「んぁ~!? すっごいんだワン、飛んでるんだワン!」
『非常識すぎますぞ主!!』
「はっはっは。どうだ、これがプロの大人な実力ってやつよ?」
『大人はこんな事しませんからね!? はぁ~もう、ちゃんと着地してくださいよ?』

 心配する相棒に「はいよ~」と言いながら、次のヤシの木へとルアーを向かわせる。
 そんな感じで次々と移動して、最後は純白の砂浜へと着地した……頭から。

「ぶベッ!? ぺっぺっぺ、着地失敗」
「んぁ~砂だらけになっちゃったワンよぅ」
『だから気をつけてと申しましたのに……とはいえ、無事に着きましたな』

 目前に広がるは、上から見るのとは別の絶景。地平線の向こうまでハッキリと見えており、来た時と違ってオーロラみたいな靄が消えていた。