「分かりました。姉上にこうお伝えください、聖女の役目、最後まで勤め上げました、と」
すばらしい(・・・・・)お覚悟です。聖石というものは、自然死か悪魔との戦いの中で命を落とした時に、最短の時間で近親者に受け継がれると聞いています」

「ええ、よくご存知で。だからここまで私を運んだのでしょう? 立地的に目立たず、しかも悪魔を捕まえておける場所へ」

 それに答えず隊長は一つうなずく。
 
「その洞察力と、覚悟。実に素晴らしい(・・・・・)……分かりました。エリザベート様へはこう伝えておきます。アリシア様は〝堂々と眉一つ動かさず、悪魔の下へとおもむいた〟と」

 その言葉に「勝手になさい」と言いながら、橋の欄干から飛び降りる。
 悪魔がいる場所まで十数メートル。

 神聖力を具現化し、聖槍を作り出す。
 残り八メートル。かなり深いと思われる、川の中に潜む悪魔共へと狙いを定め、聖槍を投げ放つ!

 水面へと聖槍が突き刺さったと同時に、瞬時に巻き起こる聖なる輝きと共に、悪魔が断末魔の悲鳴を上げて弾け飛ぶ。

 さらに湧き出る半魚人型の悪魔の群れ。

 瞬時に両手に聖槍を具現化し、さらに叩き込むこと残り五メートル。
 聖なる光と共にさらに弾け飛ぶ悪魔の群れは、中央にポカリと穴が開く。

 水面まで残り三メートル。
 両手に神聖力を込め直し、聖なる短剣(ホワイト・ダガー)を具現化させる。
 そのまま着水し、周囲を見回して絶句した。

 悪魔・悪魔・悪魔・そう、悪魔の群れが私をいやらしい視線で見つめ、水中だというのに分かるほど、紫色の唾液を垂らす。

 吐き気よりもおぞましさ。これが先に来た後、固く握りしめたホワイト・ダガーと体に神聖力をさらに込め、悪魔共へと突っ込む。

 神聖力で強化した体は、水の中でもそれなりに動ける。
 近づく悪魔から真っ二つに斬り裂き、回転しながら首をハネた。

 けど、悪魔共は水中特化型。
 次第に囲まれはじめ、左腕に噛みつかれて肉を持っていかれ苦痛に叫ぶ。
 よほど私の肉の美味しかったのか、水中でも聞こえる歓喜の叫び……気持ちが悪い。

(いけない、このままでは溺れ死んじゃう)

 そう思い一旦水面へ出て呼吸をし、神聖力で食いちぎられた左腕を再生しつつ、さらに大剣を具現化し、周囲から迫る悪魔を薙ぎ払う。
 
 でもまた現れて囲まれるけれど、この力が尽きるまで何度も何度も何度でも、裂かれ喰われ突かれても、神の御業で復活し戦う。

 結界が魔界へと通じているのか、それが悪魔共を延々と排出する。

 こんな禁忌とされた古代の魔具を使ってまで、私を葬り去ろうという兄姉に歯ぎしりしながら、もう何度目になるか、水面にでて一呼吸した時に護衛隊長の男と視線があった。


 ◇◇◇


「隊長……俺たちは本当にこんな事をしていいのでしょうか……」

 部下の一人がそう言いながら、カタカタと震えている。
 それはそうだろう。こいつらは聖女殿下は悪魔だという、ウソ(・・)を信じていたのだから。

「さぁてね。まぁお前らは絶対、多分、問題ない……と思いたいな?」
「「「隊長ぉぉぉ!?」」」
「そう悲観するなよ。女神様はムチ打ち千回くらいで、お前らの事は許してくれるさ。が、俺は良くて地獄行きかねぇ……あれは間違いなく聖女。それも稀代の大聖女様だからな」
「そ、そんな!? 俺たちはなんて事をしてしま……」

 ガクリと膝から崩れ落ちる部下。俺も半信半疑だったが、あの光景を見たら悪魔堕ちしたとの話を、信じたのが馬鹿だと気がつく。

 俺も膝から崩れ落ちたいものだが、これを引き起こしたのは俺だ。
 なら最後まで俺の責任だろう。

「やっちまったものは仕方ない。よし撤収だ! 証拠を残さず引き上げるぞ!!」

 その号令で震えていた部下も動き出す。
 向こう側の撤収が終わり、こちらも撤収準備が完了した所で橋が燃え落ちようとしていた。

「お前らは先にいけ。
俺は最後まで見定める」
「……ハッ!!」

 そう言いながら部下を背中に聖女殿下を見つめていると、「嫌な役を押し付けてすみません」と声がした。
 それに答えず左手だけで返事をすると部下たちは去っていく。