――それからすぐに城を追い出されるように出発。
帝都から馬車で三日かけて、目的地である〝サンマルクの街〟まであと少しの場所へと来ていた。
護衛が入れ替わりで馬車を進め、馬もその都度交換という強行軍で寝ることも出来ず、意識がぼんやりとしながら窓の外を見ていると、護衛が窓の外より話しかけてくる。
「聖女様、もうすぐ悪魔が出ると噂の場所に差し掛かります。至急、討伐準備を」
「え……少し。少しだけ休ませてください……もう三日もまともに寝ていなくて、力が入りません」
「何をおっしゃいますか。アナタが寝ている間、悪魔がどれだけの民を苦しめるのかを想像も出来ませぬか?」
そう言われてしまい、「それは……」と口ごもってしまう。
「で、あればこそ、聖女として役目を果たされよ。よいですな?」
「はい……分かりました、すぐに支度をします」
「結構。それでは準備が整い次第声をかけてください」
護衛は馬を下がらせて馬車の後ろへと下がる。
ガタガタと揺れる道にうんざりしながらも、すぐにやって来る悪魔との戦いを見据えて気合をいれ頬をたたく。
「いけない。私がこんな事じゃ、護衛の方たちまで悪魔にやられてしまう。しっかりしてアリシア、私がみんなを守らなきゃなんだから!」
そう言いながら必死に眠気とダルさを押さえつつ、胸の中にある聖石へと力をこめる。
「お母様、天界からお守りくださいませ。必ず魔を払い、滅といたしましょう」
祈ること数分。しびれを切らした護衛が「まだですか?」と催促してくるので、「もうすぐ整います」と返事。
ドアの外から「フン、聖女様は気楽でいらっしゃる」と嫌味が聞こえたが、今はそれを悲しむ余裕はない。
やがて馬車は目的地へと到着し、すぐに馬車のドアが開かれた。
「あの橋が悪魔が出るという場所ですか?」
「そうです。今は作業員は退避しているようですが、悪魔が邪魔をするので工事が進まないそうです」
護衛の兵士がそういうが、奇妙に感じることがある。
違和感しかないよね。だって工事をしている形跡がどこにも感じられないのだから。
木製で出来た、全長二十メートルはありそうな橋だけど、工事どころか完成しているようにしか見えない。
やっぱりどこかが変だと思い始め、城を出る前にジリーに言われたことを思い出す。
まさか誰かが、何かよからぬ事を企んでいるのか……と。
「あの、本当にここで合っていますか? 工事の跡が無いようですが」
「…………ええ。間違いありませんよ、人形の悪魔が出るそうです」
その言葉で胸の聖石に意識を集中してみる。
すると、間違いなく悪魔の気配を探知し、近くにソレがいるのだと理解した。
「失言でした。たしかに悪魔はいるようですね。では此れより悪魔討伐の義を執り行います。みなさんは所定の場所で待機を」
そう言うと、護衛の兵士たちは一気に離れていく。
そのまま聖石が悪魔の反応を感知し、その強く現れる場所へと向かう。
徐々に強くなる気配……。
やがて橋の入口まで到着すると、悪魔の気配は橋の上へと続く。
「おかしい……誰もいないのになぜ?」
つぶやきながらも誰もいないと思う現実と、聖石が感じる悪魔の気配。
その二つの事実に困惑しながらも、橋の中央まで来てしまう。
「ココが一番反応が強い。けど……」
悪魔どころか誰もいない。
でも一番反応が強いのも事実。これは一体どういう事なのかと、嫌な汗が背中に張り付く。
そんな時、状況が考えていた事とは別の方向で急速に動き出す。
橋の出口側に人影が現れ、それが十人ほどになると、その違和感に気がつく。
違和感の原因。それは昼間だと言うのに、全員が手に松明を持っていたのだから。
「え!? 貴方達、ここは悪魔が出るので危ないです! 至急この場を離れ――え!? 何をしているのですか?!」
彼らはいきなり手に持った松明を、橋の上へと放り投げる。
それが橋の上に落ちた直後、一気に燃え上がり橋へと炎が燃え広がる。