「ここまでは順調すぎてビックリだ」
『それは私のセリフですよ。あとは屋根ですが、葉っぱはたくさんありますからね』
「だな。ってことで、ここまで高まったルアー技術の集大成をみせたるぜぃ!!」
そう言うと、わん太郎が小さな肉球をポムポムと叩きながら、「早くみたいんだワン!」と大喜びだ。
ちょっと照れながら、最後の仕上に虎色ルアーを魔釣力で操る。
切り倒したヤシの葉の中へと突っ込む虎色のルアー。
それから一分ほど何も動きがない事に、相棒が不思議そうに話す。
『主よ。威勢よくおっしゃいましたが……もしやMP釣がなくなり、しくじりましたか?』
「んぁ~失敗しちゃったんだワン? かなしぃ」
「おいおい、誰が失敗したって? よっくとその小さなお目々を見開いて見ていろよ……準備は整った、あとは釣り上げるのみッ!!」
驚く二人をそのままにして、一気に相棒を立てて下にあるヤシの葉っぱが積み上がった場所から虎色ルアーを引き上げる。
と同時に、ヤシの葉っぱ全体がうごめきはじめ、〝ぞヴぉ゛〟とした音の後にヤシの葉が一つの生き物として動き出す。
まずは頭からビクリと起き上がり、それが全体をあらわにした瞬間に大きく叫ぶ。「フィィィッシュ!!」と。
瞬間、空中へと踊りあがる巨大な緑の魚影。
唖然とする相棒とわん太郎が見た視線の先にあるのは、ヤシの葉で出来た馬鹿みたいにデカイ魚だった。
それが勢いよく飛び上がると、屋根の上へと着地。
なぜか葉っぱなのにビクビクと動いて居るのを見て、左の口角をあげながら「よっしゃ!」と気合一つ。
一気に屋根に縫い付け、その動きを完全に停止させた。
早く完成形が見たいと、わん太郎をひろい上げて片腕に抱きつつ、そのまま外へと走り出す。
階段を二段飛びしながら駆け下りて、正面へと着いてから見上げるとそこにあったのは……。
「す、スゲェかっけぇぇぇぇ!! 見ろよお前たち、でっかい魚が乗ったコテージになったぞ!!」
感動。そう、感動だ。
見上げればそこにあるのは、巨大な緑色の魚が乗っているステキなお家。
感無量とはまさにこのこの事か? そう思っていると、相棒が震えたこえで話す。
『しゅ……趣味が悪い……』
「あれは無いんだワン……」
「なん、だ……と!? あの芸術がなぜ分からん!!」
震える声で聞き返すと、相棒と駄犬が何かいいだす。
『いやだって、魚が屋根とかないですよホント』
「そうだワンよ~。誰かが見たらぜったいにドン引くワン。あれは、おさらの上に乗ったお魚にしか見えないんだワン」
そっと見上げてみる。うん、確かに片方だけに傾斜を付けて、その上に乗せたからそう見えなくもない。
しかも無駄にデカイから、魚が少し家からはみ出ていて、魚屋が緑色の魚を売っているようにしか見えない……かもしれない。
「なぜこの芸術がわからないんだよ?! 解せん!! っと……あ、あれ? なん、だ……意識がまた……」
「うわわ?! どうしたの大和ぉ」
『主どうしましたか!? って、またMP釣の使いすぎで……はぁ、困った主ですよ』
意識が徐々に遠のを感じながら、相棒の小言がさらに続くのを聞く。
『大体無駄にこり過ぎなんですよ。見てみなさい駄犬、あの葉っぱ一枚一枚が丁寧に縫われていますよ』
「んぁ~本当だワン。だからあんなお魚の形が、きれいなままで崩れないんだワンねぇ~」
『まったく、こんな魔釣力を限界まで使って繊細な動きをさせたら、そりゃぁMP釣も使いますよ』
「それで気絶したんだワン?」
「ええそうでしょうね。ハァ~、起きたらまた〝ス釣タス〟を確認しないと。一体どこまで成長するのやら……」
その言葉が最後となり、意識を完全に手放したのだった……。
◇◇◇
――大和が意識を手放し数時間後。アスガルド帝国で一つの事件が起こる。