「じゃあいくぞ、準備はいいか相棒?」
『もちろんです。いつでも主の思うがままに』
「いよっし! じゃあいくぞ……建築釣りの始まりだ! 頼むぞゴッド・ルアー!」
そう言った瞬間、〝ぶるり〟と震える虎色のゴッド・ルアー。
やはりコイツも意思があり、俺の言うことを理解しているのだと、あらためて思うと心強くなる。
相棒を強く握りしめ、「行ってこおおおおい!!」と特大サイズのヤシの木へと、虎色のルアーを放つ。
迷いなくまっすぐと進む虎色のルアーは、特大サイズのヤシの木へとぶち当たり、内部へと侵入。
スキル〝人釣一体〟で幹の内部の気配を探り、一番効率よく裁断する中心部分を見つけた。
「――ここか? 一気に破断しろォォォッ!!」
中心部を見つけ、そのまま大きく相棒を背後へと引き抜く。
強く弧を描きながら、そのまま一気に虎色のルアーが空中へと投げ出された瞬間、ヤシの木の皮がバサリと剥がれ落ちた。
ツルリとした木材になったと同時に、一気に水分が幹から弾け飛び、ヤシの木は乾いた音と共に裁断された木材となって崩れ落ちる。
板状・棒状・角材となった木片を、虎色のルアーを魔釣力で操りながら、凄まじい速さで空中でまとめ上げ、地上へ落ちる頃には傷ひとつ無く着地することに成功した。
『お見事!! なんというルアー操作術!? こんなに鮮やかにルアーを使いこなすとは、驚愕といえますぞ!!』
「わぁ~手品みたいなんだワンよ。ワレも棒っきれでブンブンしたいワン!」
「だろう? 流石は俺……と言いたいんだけどさ。なんというか、俺も驚いているよ。ここまでイメージ通りに動くとか、予想以上だったよ」
『でしょうね。それも魔釣力が高いというのもありますが、主の釣りセンスですよ』
「釣りセンス? なんだよそりゃ?」
『なに簡単なことですよ。主はいつも魚を釣る時に、どうやって釣ろう? と考えていますよね?』
言われてみてよく分かる。
そう、同じ仕掛けでも隣のやつと明らかに釣果が変わることは珍しくない。
それと言うもの、釣り方だったり誘い方。または竿の微妙な動かし方もある。
あと俺も自覚している、他人よりも得意だと思うことがある。
それは水の中をルアーで探り、その地形だったり障害物だったりを把握する事だ。
これが出来ると出来ないとでは、釣果に大きく差が出るのは経験上分かっていたのだから。
「なるほどな……そう言われると分かる。今も落ちる木材の〝どこをどうしたらいいか〟を意識し、それが瞬時に理解できたからな」
『そう! それですよ主。それが分かるのが釣りセンスです。獲物を貪欲に狙う釣り人の差はそれで決まるのです。こればかりは努力で補えない事も多々あるのですから』
これもまた理解ができた。
一度ルアーにアタックした魚が次にどう動くのかとか、ヒラメみたいなフラットフィッシュが潜む目線すらも、ルアーを通して理解できたから。
「なんかすっごくよく分かった。じゃあ分かったついでに、家も作ってみるか」
ちょっと離れた場所で「がんばるワンよ!!」と応援してくれる子狐わん太郎。
それに片手で応えつつ、集中力を高める。
まずは土台部分からだ。
家がずり落ちないように、足場の巨石に溝を作り、そこへ丸材を差し込む。
本来なら石の上に上げたほうがいいのだろうけど、台風とか来て飛ばされたら困るから、ここは固定しておこう。
そう思いながら虎色のルアーを素早く動かし、巨石の上から次々と化石みたいな魚を釣り上げる。
気分はモグラたたきゲームだ。
次々と出てくる小魚を、土台から引っこ抜き砂へと変え、溝が完成したことで一息。
「ふぅ~これでよし。あとは、と」
さらにある程度の深さになったら、そこへ下に置いてある丸材を釣り上げて、空中で激しくルアーを動かす。
虎色ルアーはその顔も虎と酷似していて、その口から生える凶暴な牙で木材を切断。
それを相棒をたくみに動かし、まとめ上げた後に一気に空中で解き放つ。
バラバラと振ってくる丸材は、綺麗に開けた溝へとはまり込み、不動の物となった。