「じゃあ俺も……ふぉ!? なんだ、これ……」

 語彙力? そんなん忘れました。
 そのくらい次の一口に心を奪われた。

 鼻から突き抜ける旨味。そう、香りが美味いという新しい感覚。
 まるで濃厚なスープを飲んだ時と似た、満足感というのが一番ちかいかもしれない。

 そんな香りが鼻から抜けた次の瞬間、舌の上でホロリと崩れるやさしくも上品な味わい。
 種類にもよるが、淡水魚にある独特な臭さがまるでなく、純粋に白身自体の味が旨すぎる。

 香りは重厚だけど、味はたんぱく。この組み合わせが実によくマッチしていている。
 シンプルな焼き魚料理だけど、これほど贅沢な食べ方もない。そんな気にさせてくれる満足な味だった。

 気がつけば全て全部食べた後であり、隣を見ると駄犬・わん太郎がヘソ天で「んぁ~もう食べられないんだワンよ~」と、かわいいお腹をなでていた。
 
「無我夢中で食べたけど、こんなに満足した焼き魚は初めてだった……」
『ほぉ。そこまでですか?』
「あぁ、今までに食べたことのない別次元のものだったよ」

 そう言いながら、わん太郎のお腹をなでていると、まんぷくなハズなのに何かいいだす。

「すっごい美味しかったんだワン! 大和ぉもっと釣ってほしいんだワンよ」
「そのちっちゃいお腹がパンクしちゃうぞ? また後で食べような?」
「む~絶対だワンよ? 約束だワンよ?」
「ハイハイ。さて……と。腹も膨れたし、あとは作るか!」
『そうですね。ではやはりあの上に?』

 見上げるは八メートルの大岩の上。
 その上を見上げながら、「もちろん!」と言いながら今後の事を話す。

「とは言ったものの、釘もハンマーもノコギリすらない。これで家を作るって無謀すぎるよなぁ……」
『主よ。お忘れですか? あなたには変態があるじゃないですか』
「俺が変態みたいに言うのやめていただけますぅ? ったく、とは言え確かに〝スキル:変態的な器用さ〟を使えば何とかなりそうだな」
『ええそうです。あと(マナ)(ポイン)(ちょう)がある限り、釣り糸(ライン)は無尽蔵に出ますので、太さは主が思うままにしてください。強度も自由です』
「おお! それは使えそうだな。あとはデザインか……」

 まずは形か。それを決めないと話にならない。
 材料は近くにあるヤシの木がいいだろうし、屋根もその葉っぱがいい感じだよな。

 幸いこのヤシの木の葉は一枚の幅が広く、あの大きさなら楽に屋根を作れそうだ。
 次に形は水上コテージ風にしようか。いかにも南国リゾートっぽくて実によきじゃね?

「よし、決めた! ヤシの木を使って水上コテージ風の家を作るぞ!!」
『それはようございますね。このロケーションにピッタリです』
「んぁ~ワレの部屋も作ってほしいんだワン! ワレはえらいからして、豪華ジャグジー付きで、三食昼寝付きをメイド付きで所望するんだワン!」
『そんなに付きませんよ、寝言は寝てからいいなさい駄犬。今でも似たような環境でしょうに。ジャグジーならそこの滝つぼにお入りなさい』
「工エエェェェェエエ工!?」

 まったく何を言い出すと思ったら仕方ない駄犬だよ。
 呆れて見ていると、寂しかったのかよじよじと登ってきて「じゃあここで我慢するんだワン」と言いながら頭の上に乗る。俺の頭の上にはメイドもジャグジーもないぞ? 

「さて……と、今なら出来そうだ。最適なフォルムがあるきがする」
『フォルム? 何のですか?』
「ルアーだよ。コレまで使ってきてルアーの特性は理解した。艶めかしい初期型は、なんでも使えるが特化型ではない。五グラムのメタルジグは繊細な当たりを探るのにいい」

『なるほど、確かにそうですね。まぁ普通はそれに気がつくのも時間がかかるのですが……で、主は建築には何がよいと?』

 下あごに右手をそえながら、「そうだなぁ」といいつつ瞳を閉じる。