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「おぉ……あらためて見るとスゲェ光景だよな。南国リゾートのプライベートビーチって感じで、雰囲気が最高だな」
『ここへ来たのですか?』
「まぁな。誰か居ないかと思って島を一周した時に見つけたんだけど、その時は余裕なくて素通りしただけだったんだ」
朽ちた社から歩いて子供の足で四十分ほどで、湾になっている場所を再発見。
大人の足ならもっと早いのにと、あらためて子供ボディに舌打ちしつつ崖の上からそこを目指す。
神釣島の外周部分でも、特にココは特別な地形だ。
近づくにつれて、その美しさに息を呑む。
白を超えた純白の砂浜を、やさしく撫でる小さな波。
冗談みたいに透明度が高い、オーシャンブルーの涼やかな水面から覗く、これぞ色と思えるほどのビビットな魚の群れ。
海岸へ降りると人工物みたいな岩が、船着き場のように沖へと伸びていて、ここはいい釣り場になりそうだ。
さらに振り返ると、つるりとした岩肌が見えている。
その一部から滝が流れ落ち、滝つぼが天然のプールになっていた。
透明度の高いエメラルドグリーンのプールに、太陽光が岩肌に反射してそこもまた幻想的だ。
周囲にはヤシに似た木々が生い茂り、心地よい日陰が潮風を肌になじませてくれる。
その木々の周辺には、サフィニアに似た色とりどりの花が咲きみだれ、甘い香りで熱烈に俺たちを歓迎してくれた。
「近くで見ると色々と凄いな……」
『確かにすごい景観ですね。主の故郷の価値観からすれば、子供は五千円。大人は三万八千円で入場できるレベルですね』
「せっかくの感動を円換算で言うのやめていただけますぅ?」
『失礼。乳児は無料です』
「棺桶に片足突っ込んだ山爺も、無料にしてほしいのですが?」
なんて棒っ切れだ。
こんな素晴らしい景観を商売にしようだなんて!
とはいえ、あの船着き場っぽい場所は管理釣り場にしたら儲かりそうだな……うへへ。
『……ご存知ですか? 類は友を呼ぶといいます』
「いやあああ!? 俺の汚れた心をみすかなさいでえええ!!」
なんてヤツだ。
俺の心のほぞを見透かすとは……恐ろしい子ッ!?
そんな相棒に戦慄していると、『顔に出ていますし』と呆れられた。解せん。
「さて、オチもついたし本題だ。ここを拠点にしようと思うんだけど、どうよ?」
『セルフでオチをつけていただかなくても、私がつけましたものを。とはいえ、確かにここは良い条件が整っていますね』
「だろう? 後でおまえに判断してもらうけどさ、当面の水はあの岩から染み出している水があるし、ダメならヤシの実みたいなのも豊富にあるしな」
『まずは食事ですか。食材も豊富にありそうですし、何からいきます?』
そこだ。流石に連続してのルイベは飽きる。
ここは文明的に火を使って調理したいが、火を起こす道具がない。ん? いやまてよ。釣り糸を焼き切るのにライターがあったはずだ。
「ライフジャケットを持ってきて正解だったな。ポケットの中に……あったあった」
『火種は丁度いいものがありますよ。それから火種を大きくするのに、適した木片もありますね』
相棒が先をしならせて指す方向。
そこにはヤシの木に似た木の幹に、モフッとまとわりつく糸状の繊維がある。
「お、アレは種火に最高だよな! ヤシの木に似た……ええい面倒だ。この際似たやつは地球呼びにしよう」
『ですね。オリジナルの名前をつけても覚えるのに面倒ですから、主がわかりやすい名称がよいかと』
相棒もそういうし、「うし! じゃあアレはヤシの木な!」と言いながらヤシの木へと歩く。
想像以上に細い繊維がからまっていて、それを手でむしってみる。
するとトロロ昆布を引き裂いたのと似た感触で、〝めそっぅ〟と抜ける。気持ちいい♪
その快感がたまらなく、めそめそめそっぅと高速で抜きまくると、相棒がなにやら呆れた声で話す。
『……主、もうそのあたりでよいのでは?』
「あ!? 思わずくせになる手触りで夢中になった」
『まったく仕方ない主ですね』
スミマセンデシタと水たまりより深く反省をしつつ、次は火種を大きくする物を探す。
あたりを見渡すと丁度いい物があり、そこへと小走りで向かう。