一人は金髪に癖っ毛があり、獅子を思わせる背の高い青年。
一人は青年と似た顔だが、冷たく美しい顔の娘。
一人は五十代半ばほどの、ハゲあがったタレ目で贅肉の塊みたいな男。
そのなかで青年が重々しく口を開く。
「魔女の呪いをうけた聖女など、この国の汚点というものだ」
「ええそうですわよ兄上。ですから早々に処分をいたしませぬと。あなたもそう思うでしょう、オルド宰相?」
「はい。皇太子殿下と、姫殿下のおっしゃるとおりです。ではあの計画を?」
その言葉をうけ、皇太子殿下と呼ばれた男は「やれ」と一言告げる。
「承知いたしました。ですが……皇帝陛下はこの事を?」
「フン。老いぼれは知らぬし、知る必要もない。が、近い将来に皇帝となるオレの勅命では不満かオルド?」
その言葉にオルドは左の口角をあげながら頭を下げつつ、「陛下のみが使える勅命……つつしんで拝命いたします」と言うと、呆れた声で娘――エリザベートが話す。
「よくおっしゃいますわね。まだ皇太子だと言うのに」
「それが何だというのだ。このヴァルマーク・フォン・アスガルドが、皇帝となるのは確定ではないか?」
「まぁ……それはそうでしょうけれど……」
「それにお前もそのおかげで聖女になれるのだ。喜ばしい事ではないか」
エリザベートはギリッと奥歯を噛みしめながら、乱暴に吐き捨てる。
「あたりまえですわ。あんな魚鱗の魔女が聖女だなどと、神がゆるしても、ワタクシはゆるせませんわ!!」
「魚鱗の魔女、か。我らと同じ美しい容姿をもちながら、顔面にウロコの入れ墨が入るとはな。まぁよい、ではオルド宰相、あとは任せた。それと例の娘だがどうなった?」
「はい陛下……おっと、口が滑りましたな。別室に待たせておりますゆえ、存分にお楽しみを」
「はっはっは。それでよい、では案内せい」
オルドの肩を抱き、ヴァルマークは玉座の間を後にする。
ポツリと残されたエリザベートは、玉座をみつめると足を動かす。
一段、また一段と階段を登り、五段めを上がり終えると静かに玉座へと腰を下ろす。
「次期皇帝ですか? 馬鹿をいうのも大概になさいませ兄上。オルドの傀儡になり、酒と快楽におぼれた者に玉座はふさわしくない。この玉座はワタクシのモノ。そう、エリザベート・フォン・アスガルドのね」
右手を肘かけにのせ天井にあるステンドグラスをにらむ。
そこには月明かりに照らされた聖女が透けて見え、アスガルド王国を聖なる光で照らしていた。
苦々しくそれを見ながら、血も凍る冷めた声でつぶやく。
「姉より優れた妹が居ていいはずがない。そう、ワタクシが真の大聖女。この国を支配し、聖なる光で国を照らすのだから」
ほの暗く、うすく嗤うエリザベートは、忌々しい妹の顔を思い出す。
苛つきで顔をゆがめるが、この苛立ちもあと少しで片がつくと思うと心が静まる。
だから「聖女の光を取り戻しますわ」といいながら、ステンドグラスを見上げるのだった。
◇◇◇
「んんん……どこだここは……」
体の痛みで起きると、そこは知らない天井があった。
むくりと起き上がると腰が痛く、そこが木の床だと気がつく。
「あぁそうか。俺はガキになっちまってたんだった……」
『おはようございます主。今日も晴天で気持ちがいいですよ』
「おはよ~! ってお前は寝てない感じな声だけど、平気なのか?」
『ええ、私はこの状態なら寝なくても平気ですよ』
「それはいいなぁ。一週間寝ないでぶっ通しで釣りができるじゃん! 特別な力を持つ存在って感じだよなぁ」
『ハァ~。主の基準は、あいも変わらず釣りなんですね。まぁもっとも、もう一匹の特別な力を持つ駄犬は、まだ寝ていますがね』
ふと耳に聞こえてくる寝言。
聞き耳を立てると、「んぁぁ、女幽霊やめるんだワンよぅ」とか言って体をくねくねさせている。
女の幽霊に追いかけられている、悪夢でもみているのだろうか……怖い。
「なんだかお取り込み中のようだな」
『ですね。さて今日は何をしましょうか?』
「そりゃ決まってるさ。まずは釣り! そのあとメシ! そして家を建てるぞ!!」
『釣りから始まる異世界二日目ですか。実に主らしいですね』
「だろ? って事で行こうぜ!」
そう言いながら、まだ寝ている子狐わん太郎を左肩に背負い、相棒を右手に社を出る。
ふと振り返ると御神体みたいな物があり、そこに一応あたまを下げておいた。