だがどう考えてもおかしい。
なぜならMP釣の残量を考えれば、七つもの香辛料を釣り上げることなんて出来ない。
いや、それだけじゃない。主はただ釣り上げただけじゃなく、別々に精製して小分けにしたのだ。
本来釣り上げたものは混ざった状態で現れ、それをスキル:器用貧乏で精製する。
『だからこそ理解が出来ない……ッ! まさかスキル〝器用貧乏〟を同時に使ったというのですか!?』
そうとしか考えられない。普通なら釣り上げれるのは素材のみ。
だからこそ、山椒だけを抜き去り残りは許容するはずだったのに……。
それを完成した状態で釣り上げた。つまり、釣り上げたと同時にスキル:器用貧乏を発動させ、精製した状態の香辛料を創り出した。
しかも山椒だけを抜いたのではなく、全ての素材を釣り上げ、小分けにしてしまったのだから。
『本来、こういう複雑に混じりあったものを釣り上げるには、相応のMP釣が必要です。でもたったアレだけのMP釣で釣り上げ、ここまでしてしまうとは……主、あなたは一体』
全てのMP釣を使い果たし、それどころかマイナス域まで使った反動で気絶をした主。
改めて思う。この少年は規格外すぎるのだと。
『…………』
静かに主の寝姿を見つめながら思う。
『まったく……会ったばかりだというのに、私をどれだけ驚かせれば気が済むのですか貴方は……それにしても〝理〟はこうなる事を見越して主をこの島の開放者にしたのですかね』
そう呟きつつ、それが確信めいたものだと感じていた。
◇◇◇
「んん……うるさいぞぉ~なんだってんだよ、まったく……」
目が覚めると子狐わん太郎が俺の腹をムニュっとした肉球で〝ぽむぽむ〟と叩いていた。
なんだか心地よく冷たい感覚に癒やされ、また眠りにつこうとしたが、若い腹の中はそれを許さない。
そのハングリーな轟音はとどまることを知らず、強引に耳の中へとねじ込まれた。ぐるぅぅぅ~っとな。
「大和ぉ~起きるんだワン! うるさくてしかたないワンよ~!!」
「んお!? マジでうるさすぎて目が冷めた!! どんだけハラヘリの民なんだよ俺ってば。つかなんで寝ちまったんだろう?」
むくりと上半身を起こして周囲を確認すると、相棒がふよりと浮きながら話す。
『おはようございます主。いい夕方ですね』
言われてみるとたしかに夕暮れが近い。
そんな物悲しくも釣りをするにはアツイ時間にゾクリとし、一瞬釣りに行こうと思ったが、流石の俺も今はメシだ。
「ハァ。一気に疲れたし、はらへったぁよ~。気絶したわけも知りたいけど今はまずはメシ! よし作るぞわん太郎!!」
「そう言うと思って、ワレがいっぱい捕まえてきたんだワン」
わん太郎がそういいながら、短い右前足で指す方角。
見ると瑠璃色の池に泳ぐ、三種類ほどの魚がバナナに似た葉っぱの上に十二匹乗っていた。
あいも変わらず不気味に緑色に発光するやつ。黄色く発光するやつ。そして赤く発光するやつと、とても食べ物とは思えない魚ばかりだ。
「……なぁわん太郎。どうせなら光ってないのも泳いでるだろう? そっち捕まえてこいよ。信号機を食べる趣味はないんだが?」
「んぁ? だって大和はね、この臭いのがたまらなく好きなのかと思ったワン」
「汚臭をおかずに白米をかき込む趣味はねぇんだが!? まぁいい、それよりも――料理開始だ!!」
まずは魚たちを触り、その弾力性を覚えておく。
大体の感覚を感じ取り、わん太郎へ「三枚におろしてくれ」と頼む。
すると「わかったワン!」と言ったそばから、次々と十八センチほどの魚が三枚におろされて身と骨になる。
本当にどうなっているのかと驚く爪さばきだが、見ると爪先に氷の刃がついていた。
どうやらソイツで美しいまでの、鋭利な切り口に仕上がっているのだと思うと驚く。
見惚れていると、「できたワンよ~」と気の抜けた声で教えてくれた。
「サンキュ~わん太郎。さてと……やはりいる、か」
わん太郎が切り刻んだ魚の残骸の中に内蔵を発見。
そこから這い出ている白い糸状のナニカ。
それに心当たりがある。思わず眉をしかめながら、わん太郎へと話す。