『食材自体の臭みを消すにはいくつか考えられますね。その一つに香草(ハーブ)と言われるもので臭みを消す』
「それはそうだけどさ、こんな臭い魚にハーブごときで太刀打ち出来るのか?」

 そう言うと、相棒は『それなんですが』とつづける。
 どうやら俺が目覚めるまでの間にソレらしきものを見つけたらしく、その思い当たる植物がある場所へと案内してくれるという。

「よし、ならそれを探してみようぜ? もしかしたらそれで、池の魚も美味しく食べられるかもしれねぇし」
『ではまいりましょうか。まずは来た方向と逆の方向へと行きましょう』
「太陽があの位置だから……うん、今日からその方向を北としよう!」
『それがいいですね、分かりやすく情報が共有できますし。では北へ』

 相棒は先端をしならせて、向かうべき方向を指す。
 見た目はただの木の棒だが、そのしなやかな動きが実に美しい。
 まるで俺の愛竿である、本物の釣り竿(WSL)と同じしなり具合で、見ていて気持ちよくなる。
 頬ずりをしたくなるほどの見事なしなり具合だ……うつくすぅ~。

『なんというかその……悪寒が走るので、私のお尻を見つめないでいただきたいのですが?』
「お前に尻とかあるのかよ?! つか、見ているのがバレているのですか!?」

 ただの棒のくせになんという自意識過剰すぎるやつだ! フン、だがまぁ……いいしなり具合(・・・・・・・)だ。

『HENTAIの気配がまた……』
「ッッ!? ハテ、ナンノコトヤラ。それよりハーブはどこよ? 結構歩いたと思うんだけどさ」
『まだ五分しかあるいていませんよ。まったく、先が思いやられますね』
「くぅッ!? 異世界恐るべし」

 そう言いながら歩くと、わん太郎が「んぁ~歩くのがつかれたんだワン」とか言いながら肩によじのぼり、頭の上に乗る。
 やめていただけます? お子様なボクとしては結構重いのですが。

 流石は二つ名が駄犬な子狐。四足駆(4WD)のくせに、人間様に乗ろうなどと生意気な。
 その駄犬っぷりをこれでもかと披露しつつ、なんだかいびき(・・・)をかき始めた。
 フリーダムすぎんだろオイ。けどまぁ、わん太郎の体温ってかなり低い。
 
 いや、低いと言うよりは冷たい(・・・)と言ったほうが適切だろう。
 まるで冷蔵庫に入れた保冷剤よりすこし冷たい。それがヤツの体温だった。
 おかげで、この南国の暑さもかなりしのぎやすくなったかも?

『見えました。そこの大きな木を超えた先に香草の群生地があります』

 そんな事を考えていると、相棒が到着したと教えてくれる。
 思わず走り出し、七歩走ったところで体だけじゃなく、心も若返ったのかもと苦笑い。
 そんな自分に少し照れながら走ること数秒。目の前に広がるのは一面の赤い草原だった。

「うおおおお!? 赤金色の草原とか面白すぎるぞオイ! すっげぇ……」

 風がふき、赤金色に光る草の絨毯(じゅうたん)をなでる。
 すると太陽の光を反射し、赤金色に輝く波が〝ざわり〟と広がっていく。
 その幻想的な光景に空腹を忘れて見入る。

 しばらくし、相棒が『主よ、そろそろ採取しませんか?』と言う声で、我に返って状況を再確認。

「あぁそうだな……っと、いけない。これがそのハーブか?」
『はい。今は味わう事が出来ないので、私をしならせて草を切った汁の付着したサンプルから、そう判断しました』
「そんな事もできるのか? 色々すごいねホント」

 そう言いながらしゃがむと、頭からわん太郎がすべり落ちる。
 ぽてりと落ちたヤツは、高さ三十センチほどの草の中へと落ちた瞬間、凄まじい香気がたちのぼる。
 そのなんとも言えない香辛料ともハーブとも思える、不思議な香りが食欲を刺激し、ますます空腹になってしまう。

「これは凄い香りだな。それにしてもこの香りはヤバイ。ますます腹が減って頭がクラっとする」

 わん太郎を拾い上げて胸にかかえながら、そっと赤金の草を摘んでみる。
 すると、ますます美味そうな香りがして、思わず汁を口にふくむ――が。