「なぁ、このままじゃ一枚にならないぞ?」

 そう。布の面積からして、パレオ風にしようとおもったが元々別の布だ。
 だからそれを繋げないとだめだと気がつく。
 すると「んぁ? 縫ってやるんだワン」と、わん太郎は気軽に縫ってしまう。ケモノなのに器用すぎて、俺の敗北ゲージは天井を限界突破中。

 ぐぬぬと地面に四つん這いになっていると、「できたワンよ~」と言いながら頭の上に完成品がかけられた。
 それはパレオみたいな感じに仕上がっていて、左右からグルリと俺が作った布で覆われており、正面にわん太郎が作った布が縫われていた。
 しかもヒモまであるから、腰からずり落ちないのが子狐の心意気ってやつか。
 
 デザインはまぁ、なんだろうか……そう、いうなれば〝パレオ風ふんどし〟といった感じか。
 尻の下まである布で腰が覆われて、真ん中の中心からぶら下がる布がわん太郎のものだ。
 しかも、わん太郎の布は長く、ヒザくらいまであったりする。
 もはや変なふんどしにしか見えなくて、唖然としていると相棒が苦言を呈する。

『ステキナフンドシデスネ』
「くッ、ふんどし言うなし。はぁ、まぁ無いよりはマシだな。っと……おお、いい感じに俺を包み込むのがスィーティ~」
「日本男児ぽくてよきなんだワン」

 むだにくるりと一周し、見えない観客にアピる。
 するとどうだろうか。すてきなお姉さま達のアツイ声援が聞こえる。そう、大人の娘たちの声援がだ。

『……妄想もすぎると犯罪になりますよ』
「べ、ベツニ妄想とかしてねぇし、妄想は犯罪にならねぇし! と、とにかくメシだよメシご飯」

 くっ。相棒のやつ、俺のファッションへとこだわりを妄想といいやがって。
 まぁいい、それより今はその凍りついた魚を食べることにしようか。
 ステキな服(ふんどし)を作った後だというのに、いまだに凍ったままの不気味に発光する魚だが、今は腹減り部族の名誉族長に就任した俺には些細(ささい)な問題だ。

「なぁわん太郎。それどうやって食べるんだよ?」
「んぁ? そうだワンねぇ。異界骨董やさんで食べたことあるんだけど、シャリシャリしていておいしいんだワン」

 また出た異界骨董やさん(・・・・・・・)。そこが気になるけど、わん太郎はあまり話したそうでもなかったので、そのままつづける。

「んん~シャリシャリねぇ……あ、もしかしてあれか? ルイベってやつ」

 よくシャケやマスなんかを、凍らせて薄切りにしてから食べる料理のことをルイベと呼ぶ。
 その独特な歯ごたえと食感。そして油がのった魚も適度に冷凍する事で、水分と共に余分な油も抜け落ち、相乗効果で臭みも抜け落ちるはずだったか。

「そうそう、そんな事を言っていたんだワンよ。じゃあ切ってみるワン」

 そう言うと、わん太郎はサクっと魚を切り分けてしまう。
 本当に何者なんだと今更ながらに思っていると、ヤツが右前足で魚をさして話す。

「ほれぇ、食べてみて~」
「うむ。くるしゅうないぞえ」
『なんですか、そのおかしな貴族語は。それで味はどうなのです?』

 相棒はそう言いつつも、どんな味なのかを期待しているのがわかる。
 そっと自分で言うのもなんだが、ぷるりとしたクチビルを冷たい感覚がまたぎ、舌の上に〝シャリ〟っとした刺す冷たさを感じた瞬間、犬歯を中心に旨味が一気に広がる。

 思わず「ふあッ!?」と声を漏らすほどに、この怪魚どくとくの脂の旨味を感じ心臓がドクンとはねた。
 さらに口内を進撃する旨味と共に――えげつない臭み(・・・・・・・)が鼻孔を突き抜け、一瞬気を失うほどだ。
 それは時間にして三秒ほどだと思うが、実際はもっと長いのかもしれない。
 
「ぶぼッ!! く、くっさあああああああッ!! 旨いのに、なんだこの生ゴミみてぇな臭いは?!」
「んあ? どれどれワレも……ッゥ~?! お鼻が曲がっちゃうんだワン!!」
『ふむ。どうやら味は最高なのに、エゲツない臭みが問題のようですね』

 相棒の言う通り、どうやらマトモには食せないらしい。
 味は最高かつ、ルイベにして臭みを抜いたというのに、この悪臭のせいでとても食えたものじゃない。
 どうしたものかと考えていると、相棒が興味深い事を話す。