「はっくしょいッ!! うぉ、なんだか寒いぞ」
ブルっと寒さを感じてクシャミをして震える。その理由が目の前があった。
子狐のわん太郎が氷の塊みたくなっており、そこから冷気がこちらへと流れてくる。
まるで一月十三日の北緯四五度三一分二二秒、宗谷岬の突端に立った時に感じた寒さと同じ……いや、それ以上に極寒を感じて体が本能的に震えてしまう。
「な、なんで凍っているんだよ! それにその力は何だ!?」
「んあ? あぁワレは氷の力が得意だからして、ちょっとだけ周りが寒くなるんだワン」
ちょっとだけ? そのわりには、すっごく寒い。と言うか、話せるし変な力あるし不思議な子狐だよな。
「異世界ってスゲェ……」
「このくらいは普通だワンよ。でもねぇ~大和の格好をみると、それは寒いと思うんだワンよ」
「寒い? なんでだよ。ここは南国の島だぜ?」
そう疑問の思っていると、棒っ切れが何やら言い出す。
『主よ、原因はその格好にあるのでは?』
その格好? あぁ、それはそうだろう。
俺はハイブランドの品に身を包み、どちらかと言えば機能性より見た目を優先する。
つまり薄手のシルクのシャツを着ているのだから。が、でもやっぱり寒い。
そんな俺の足元をくるりと一周した、わん太郎が不思議そうに話す。
「んぁ~、ねぇ大和。ここは南国の島だワン」
「ん、まぁそうね?」
「でもねぇ、いくら子供の体とはいえ、ふるてぃんはヤバイと思うんだワンよ」
何のことかわからない。そう、俺は大人のナイス☆ガイのはず。
そんなファッションリーダーの俺だ。釣り場で山爺に「磯場はファッションショーじゃねぇ」と言われ続けた俺が、だ。
だから言ってやる。ポケットに小粋に右手を突っ込んで、誰がふるてぃんだと厳しく言って――。
「――むにっと握っただとおおおお!?」
『エア衣服の練習ですか? 新しい性癖の獲得おめでとうございます』
「そんな性癖いらんわ!! って……そうだった。さっき池をのぞいた時に裸だったのを思い出した……」
驚愕にうち震え、そっと前をかくしてみる。
右手でなんとかなる事実に、しっとりと涙をながしつつ「俺のハイブランドの服はどこー!?」と叫んでみた、が。
「んぁ? あれはもぅ溶けちゃったんだワンよ。大和が子供になった時に、〝理〟がとかしちゃったんだワン」
「なにしてくれてんのよ、あの変質者どもは!?」
信じられん。シン・ヤマトに改造され、イケオジボディを失ったばかりか、オキニの服まで消え去るとは。
「〝理〟め許せんッ!」
『「すっごくわかる」』
〝理〟の理不尽さに怒りがこみ上げるが、棒っ切れとわん太郎が激しく同意する。
どうやら二人(?)にとって、〝理〟とは共通の認識があるらしい。
「ところでお前ら、〝理〟の事を知ってるようだけど知り合いか?」
『知り合い? 冗談じゃありませんよ。あの悪辣非道で意味の分からない存在には、ほとほと困っています』
「そうなんだワン。〝理〟はワレや棒っ切れみたいに、力がある存在からすれば目の上のたんこぶだワン」
「でもその存在は謎なんだろう?」
『ええ。神すらも奴らの理という名のルールを超えると、とてつもないペナルティが発生しますからね』
「神すらもあがなえないのか!? つか、いるのか神様?!」
『それは居ますよ。主が持つ天空の破片は、元々神の持ち物ですからね』
まじかよ……確かに妙なことが連続で忘れていたが、確かに棒っ切れに凄い力を感じてはいた。
『まぁ今はあの正体不明のド腐れ現象より、主の蛮族BANZAIな格好を何とかしないといけませんな』
「俺を変質者みたく言うのはやめていただけますぅ? 棒っ切れのくせに生意気な」
『今更ですが、棒っ切れではありません! 私は天釣の執事。ワーレン・シャール・ロッドマンと申します。今回は忌々しい理により、〝天空の破片〟と呼ばれるゴッド・ロッドのコアとなり、主たる島野大和様へとお仕いしている次第です』
「長い名前だなぁ……じゃあ相棒って事で」
『それだと私がメインな気もしますが?』
「知的な俺が棒に負ける!?」
解せん。どうして俺が棒っ切れに負けるのだ。
とはいえ腹が減ったし、このままなら本当に飢えそうだな……。
とりあえず相棒のやつがいうとおり、このショタボディ全開をなんとかしないとまずいか。