「そんな事があるのか……なぁ、うすうす感じていたが、ここは日本じゃないんだろう?」
『日本どころか天の川銀河内にある地球が、その中心から2万8000光年。3.26×106光年×(362㎞/秒÷67.8㎞/秒)=1.74×107光年の位置という意味でしたら違うといえますね』
「な、何を言っているのか分からねぇんですが?」
『ふぅ。仕方のない主ですね。まぁ有り体に言えば、ここは銀河系ですらない場所――異世界というやつですよ。文明レベルは地球より下ですが、機械文明ではなく魔法文明で成り立っています』

 聞き捨てならないワードが聞こえた気がする。
 魔法? あのズベズバーって指から出るアレか? だから静かに聞いてみる。

「……あの、さ。魔法ってあの魔法?」
『どの魔法かは存じませんが、多分その魔法です。見た目は石や木材で作られた建築が主ですが、魔法文明により、ある部分では地球より実に便利になっています。例えば――』

 どうやらこの世界の住人は魔法という力により、繁栄しているという。
 その中でも生活におけるものは便利であり、火や水はそれで賄えるらしい。マジカヨ。

『と、まぁ他にも色々ありますが、総合的にみて地球よりエネルギーという意味合いでは進んでいますかね。その中でも特に注目スべきは攻撃魔法と神聖魔法ですか』

 さらに続く。魔法という存在は生活魔法にかぎらず狩りになどにも使われ、さらに魔物の討伐や戦争にも使われるのだと言う。
 さらに癒やしという、俺が知っている言葉の意味を超えた、真の癒やしとして傷まで治るのだというから驚きだ。

「信じられない……いや、俺がこの体になっているんだ。魔法があっても不思議じゃないのか? いや、でも……」
『主の体はスペシャルです。この世界の魔法でも通常はそうはなりませんが、〝(ことわり)〟による特殊改変の結果といえましょう』

 なるほど理解した。あれだ……俺が小中学生みたいな見た目だから、コイツは俺が喜びそうな事を言っているに違いない。
 だから言ってやった。右手を差し出し「ふざけるな!」と。

「いいか、俺は魔法なんかじゃ喜ばないぞ! 例えファイヤボールと唱えて、火が出ても嬉しくなんか無い! いいか俺は大人だ、それもプロの大人だ!!」
『なんですかプロの大人って。それが何かは知りませんが、とりあえず右手を出してこう唱えてください。ス(ちょう)タスと』
「ちょっと待てぃ。なんだよ〝ス釣タス〟って!? ステータスですらねぇのかよ!!」
『何がご不満なのです? これは主が泣いて喜ぶものですが』

 絶対馬鹿にしているなコイツ。いいオッサンの俺が、そんな恥ずかしい事で喜ぶわけがねぇ。
 ふん、いいだろう。俺が大人の余裕ってやつを、この駄棒に見せてやる。

「ハハハ、いいだろう。どこに目がある分からないが、よっくと目を開けて見とけよ? ス釣タス!! どうだこれ……で納得し……た……うおおおおおスッゲエエエエ!! マジかよ最高か!?」

 すみませんでした。私が悪うございました。だってコレ凄すぎなんですもの。
 一度俺が死ぬ前に味わった、最後に釣った蒼白銀の魚とのファイトが映像として(・・・・・)記録されていた。
 そう、釣りチューバーがアクションカメラで、手元を撮影しているアングルと、それを離れた場所から撮影している感じ。
 さらに驚いたのが、水中でのバトルの様子まで完璧に映してあり、脱帽すぎて草も生えん。

「うわ~!? カッコイイ~俺すっげぇ!! ここなんかマジで惚れる! すごくない? ねぇ、すごくない??」
『お、落ち着いてください主。映像は逃げたりしませんから!』

 落ち着け? 馬鹿をいえ! これが落ち着いていられるかよ。
 見てみろ、俺のこの勇姿を! 特に「フィィィィッシュ!」と、魚を針にかけた瞬間は最高にクールすぎる。激アツだッ!!

「DVDに保存したいからデッキをくれ」
『せめてブルーレイにしたほうがよいかと。そもそもそんな事する必要ありませんよ。ハァ~なんて主に仕えることなったのか……』
「確かにいつでも見れるからいっか。今更だけど、俺は地球へ帰れるのか?」
『本当に今更ですね。この神釣り島の封印を解いた以上、もう帰れませんし、帰っても今の主を見て、誰が元の釣り馬鹿の変態中年と思いますか?』

 何か失礼な事を言われた気がするが、もう一度再生をしている最中だったから、気分がいいので許すことにした。

『それに主は向こうの世界で思い残した事はないのでは? ここに連れて来られたという事は、そういうしがらみよりも、釣りという生き方(・・・)を選んだという事でしょう?』

 確かに言われてみればそうだ。向こうで友人知人はいたが、家で待ってる家族は誰もいない。
 だったらこの島で釣り生活も悪くない。そんな気分にさせられる。

 唯一の心残りは、山爺の手紙を活かしきれなかった事を、彼に謝れなかったことくらいか……。
 だから「そう、だなぁ」と言いながら瑠璃色の池を見つめた。

 その時だ。若い体がアレを欲する事で、ついに自覚してしまう。