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――大和とアリシアが五度目の歓迎会を開いている頃、とある泉のほとりに佇む一軒の屋敷へと、黒猫が走り寄る。
全て石でできたその屋敷は、古いが一目で高貴な人物が住んでいるのだろうと思える庭と、警備の兵士に囲まれていた。
が、どうにも兵士の様子が普通とは違う。
そんな兵士の隣を、漆黒の猫が通り過ぎざまに「魂の定着があまいニャ」とつぶやく。
どうやらこの猫、普通の黒猫じゃないらしく、足早に窓から侵入し、この屋敷の主を探す。
途中メイドに出会うが、そのメイドも少しおかしい。
なぜなら全て人形だったのだから……。
「泉の魔女様はどこにいるのかニャ?」
「ハイ。主様は書斎にいらっしゃるかと」
「ありがとニャ~」
メイドに挨拶をしつつ、黒猫は足早に進む。
ほどなくして、真っ赤な扉の前にくると、彼専用の小さな出入り口から中へと入る。
「泉の魔女様もどったニャ~」
そう声をかけるが、泉の魔女と呼ばれる三十路ほどの美しい女は独り言に夢中だ。
「おかしい……どう考えてもおかしいわよ。どうしてあの子の反応が曖昧なのかしら? んんん?」
「魔女さまぁ~おーい、泉の魔女様ぁ聞こえてますかニャー?」
まったく黒猫の事など眼中になく、分厚い本を開き、傍らに大きな水晶を覗きながらまた独り言を続ける。
「もぅしかたないニャァ~。泉の魔女さまぁ~えいッ!!」
黒猫はジャンプすると、魔女の頭へと飛び乗る。
それに驚き「み゛ぁ゛!?」と変な声をあげ、泉の魔女はひっくり返ってしまう。
「あいたた……もぅ、なんて事をするのよ黒曜!」
「何度も呼んだけれど、返事しない魔女様が悪いんだニャ。それで何か分かったかニャ?」
「ええ当然! なにも分からないわッ!!」
コテリとコケる黒曜。だがいつもの事だと思い直し、自分の知っている内容を話す。
「ハァ~仕方のない魔女様だニャ~。こっちは情報を掴んだのニャ。ちょっとアスガルドの帝都まで行って来たんだけどニャ――」
黒曜はこれまであった事を詳細に話す。
強欲な皇太子と皇女に施した呪いが解呪され、しかもそれを解呪した聖女へとそれが移った事を。
「え? って、待ってよ黒曜。あれは二人に分散させたから何とか平気だったけれど、人一人が背負うには重すぎる呪よ? 本当なら既に死んでいるはず……あ、もしかして死んじゃったから呪鱗の呪いが消えたのかしら?」
「違うのニャ。実は――」
黒曜はさらに驚きの話をする。
なんと聖女が行方不明になり、その結果、伝説の島――神釣島が現れたという。
さらにそこへ強欲な皇太子が乗り込み、島と聖女を手に入れるのだと言うことだった。
「まさかそんな事が……でもなぜ呪鱗が消えたのかしらね? んんん……考えていても仕方がないかな。って事でその島へ行ってみよ~!」
「工エエェェェェエエ工!? またそんな思いつきで行くのかニャ?」
「そりゃそうよ。自分の目で確かめないとね? さ、そうと決まれば早速いくわよ! おいで黒曜」
黒曜は「しかたないニャ……」と呆れながら、泉の魔女の肩へと飛び乗る。
「何が待っているのかしらねぇ。楽しみになってきたな♪」
そう言いながら、長い廊下を早足で歩く。
まだ見ぬ伝説とまで呼ばれている、神釣島をめざして。
◇◇◇
◇
――次の日の朝の神釣島。
コテージのバルコニーでぼんやりする。
視線の先にはビーチで遊ぶアリシアと、もふもふコンビが水遊びをしていた。
『……ずいぶんと明るくなりましたな』
「あぁ……本当にな」
俺が作った水着を着込み、エマージェを海面へ浮かせて、その上で水遊びをしているようだ。
その様子を見て、アリシアを慕ってきた仲間もそれに手をふる。
「あいつらの家も作ってやろうか」
『それがいいでしょうなぁ。ん……? 主よ! なにやら感じませんか!?』
突如相棒が緊迫した様子になり、何かを感じ取ったようだ。
が、当然俺もそれを感じており、ヤシの実ジュースを一口飲みながら呆れて話す。
「まぁ~た身の程知らずが来たのか」
『らしいですな。どういたしますか?』
残ったヤシの実ジュースを一気に飲み干し、殻を空中へと放り投げ相棒を一振り。
「どうもこうもねぇさ。俺の家に手を出す馬鹿には――」
――空中でヤシの実が真っ二つになり落ちる。
「世界が別々の光景になるようにしてやるまでさ」
『はっはっは。それでこそ我が主です』
「って事で行くか。お客様をおもてなしになッ!!」
そう言いながら、俺は相棒片手に大きくジャンプし、飛び降りながら空中を飛ぶ。
「魅せてやろうじゃねぇか。神釣島の主の実力ってやつをな!!」
口角を上げながら、次のヤシの木へとルアーを飛ばすのだった。
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あとがき
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
全てを釣りで解決するお話、いかがでしたでしょうか?
気に入っていただけたのなら幸いです。
ここでお話は一旦終了となりますが、大幅に改稿してまた近いうちに出す予定です。
その時またお付き合いいただけたら、とても嬉しく思います。
貴重なお時間、本作をお楽しみいただきまして本当に大感謝です!!