その氷の化け物は四足獣で、よく見れば狐を凶悪にした顔つきであり、氷の体の一部が青白い毛皮に覆われている。
 体の大きさは、クール便を自宅へと運ぶ四トントラックほどであり、それが振り返る。

 真っ赤な光る宝石が瞳になったと思えるほどに、ゾクリとする美しさ。
 と、同時に、絶対的な強者としての自信ある声で俺へと話す。

「大和よ待たせた。後は我とヒヨコでやっておくから、ゾンビ娘を助けるがよい」
「へ? どちら様ですか?」
「なんと、少しの間離れただけで、我の事を忘れたのか? 嘆かわしいんだわん……コホン、嘆かわしい!」

 え? わん? 我? んんん……?

「って、おまえ!? わん太郎か!!」
「そ、そうとも言うが、我はキツネの王、氷狐王(ひょうこおう)よ!」
『偉そうに。体が大きくなっても駄犬ですよ、あなた』
「駄犬言うな! ふん、まぁよいわ」

 わん太郎もとい氷狐王は、氷の前足を床にザリリとこすりつけながら前を向く。

「まぁ今の大和なら時間をかければ一人でも出来ようが、今すぐに繊細なルアー操作(・・・・・・・・)が必要となろう? だからぁまぁ、王みずからが、露払いしてやるんだわん……してやるのだ!」

 別に〝わん〟でもいいと思うが、なにやらその体になったら、偉そうに話すのがこだわりなのか?

 とはいえ流石はわん太郎。よく分かる。
 これから俺がしようとしている事は、戦いながらでは無理なのだから。

「助かる。わん太郎、エマージェ、ふたりとも頼むぞ?」
「ぽぴゅ~!」
「まかせるがよい」

 そう言ったと同時に、わん太郎は前足を勢いよく床へと叩きつけた。
 と、同時に床から無数の氷の槍が出現し、堕天使群を貫きつくす。

 さらにエマージェは、その氷の槍の一つに足でガッシリとつかみ、勢いよく上へ昇ると同時にモフな巨体で体当たり。
 
 あわれ、堕天使はあんなにモフなのに、体に当たると堕天使が砕け散り消え失せる……モフなのになぜ???
 なにはともあれ――。

「――助かった。じゃあいくぜ相棒」
『ええ、いつでも』
「おやおやぁ? しょせん化け物が増えようと、キサマが何をしようと、状況は変わりません。むしろ私に神はさらなる力を与えることでしょう!!」

 相棒を持つ手にこれまでに無いほどの魔釣力を込めて、虹色をさらに輝かせる。
 まるで蜃気楼と思えるそれは、星座のリールを通し、釣り糸から先端のゴッド・ルアーへと伝わり黄金のルアーまでもが周りが七色に輝く。

 チャンスは一瞬だ。
 ゲスダーは俺がニ度も救出に失敗しているから、油断をしている。
 だから一瞬で両方(・・)かたをつける!

「何をたくらんでいるううう!? 何をしようとムダな事おおお!!」
「無駄かどうかは俺が決める……だから三下、テメェはとっととアリシアを返しやがれ!!」

 黄金のゴッド・ルアーを天高く打ち上げ、そのままゴッド・ロッドを振り下げて、ゲスダーの胸元へと撃ち込む。
 
 まるで黄金の水星となったルアーは、赤い瞳を高速で動かしながら、すべての状況を把握しつつ胸へと消え去る。

「なッ!? ヴぁかな! その位置には攻撃は効かないはず?!」
「ニ度も侵入を許したマヌケに後悔しな。今の俺はそんなに甘くねぇ!」

 奴は満身し、自分の体のみを魔法で防御していた。
 が、アリシアの体はむき出しであり、俺が足掻(あが)くのを楽しんでいたのが狙い目だ。

 ゲスダー自身も気がついていない、防御魔法の穴。
 そこに気がついた俺は、そこへルアーを狙い落とす。

 一気にアリシアの背中の後ろに隠れている、聖女の力を吸い取り拘束している部分へと、ルアーを喰らいつかせる事に成功。

 一気にアリシアを拘束している脈打つ要へと魔釣力をブチ込み、最大にして最強の大物を釣り上げる(・・・・・・・・)!!

「もどって来いアリシアアアアアアアアアアッ!!」
「う゛ん゛!!゛もう迷わないッ!! 私はヤマトさんたちと自由に生きるんだッ!!」

 ゲスダーの体から〝ぞヴぉ〟と、剥がれる音がした事で、ヤツはパニックにおちいる。