「……? え、誰だこの子供は?」
瑠璃色の水面にうつる、蒼白銀の髪の色をした少年。
そいつが水中から俺を見ているのだが、なんだか様子が変だ。
「おい、水中に住んでいるのか? おーい?」
なんとなく右手を振ってみるが、向こうも同じように手を振り返す。
おかしい。どう考えても俺と行動が同調しすぎている。
だからフェイントで右手を振りつつ、左手で鼻の穴へと指を突っ込む。
「うぉ?! バカが居るぞ! って……まさかやっぱりコイツは……俺?」
恐る恐る顔を触ってみる。当然水面にうつるガキも同じく顔を触り、驚愕の表情をうかべる。
だから叫んだ。力の限り全力で「うっそだろおおおおおおおおお!!」と。
「な、なんだよこれ? どうして俺が十三歳位のガキになってるんだ!? しかも顔も少し美少年に変わっている気もするし、髪だってあの蒼白銀の魚と同じ色だ!」
思わず立ち上がり、体をあちこち触りまくる。
「うわ!? アレもコレもちっさい!! やっぱり良くて中学一年くらいだぞこれ!! 俺のアレとコレはどこにいったんだああああ!?」
がくりとヒザから崩れ落ち、無くした戦友との別れを悲しむ。
色々と世話になったアイツだけど、居なくなると寂しいものだ。
さめざめと悲しみが雫となり落ち、足元のコケがそれを吸収して輝きを増す。どうだうまいか、俺の悲しみが?
「さらば美中年。そしてこんにちわ美少年、か。一体何があったんだよ……そもそも俺は死んだはずじゃ?」
ぼぅっと空を見上げると、怪しげな鳥が怪音で叫んでいる。
やっぱりここは別世界なのかと思うと、若い相棒がキュっとして緊張が走る。
「怖ぁ~。やっぱり俺ってエサ扱いになるのかな」
そんな風に思っていると、背後から高めの声質な棒っ切れの声がし、見るとそれが浮いていた。
『主! 無事に目覚めたのですね! よかった、本当によかった……』
「あぁ~そのまぁ、心配かけてごめんな? つか、主? 俺が?」
『そうですとも。あの忌々しい〝理〟にそう設定されましたからね』
確かに俺は主と呼ばれる存在になったのだと、理屈以上に体で感じていた。
あの無くしたはずのWSLが、俺の体と一体となった感覚からそれが分かる。
だがその原因となった、謎の機械的に話す〝理〟という存在。
それが現れた後、急速に色々とすすんだからこそ、アイツらに対する疑問がわく。
「その〝理〟ってのは何だ? あの時は色々とあったから、聞く余裕も無かったよ」
『そうですね……一言で言ってしまえば、超自然現象そのものといった感じですか』
その後、棒っ切れの説明はつづく。
どうやら普通の存在じゃないらしく、何か特殊な条件がそろうと、何処からともなく現れて結果を押し付けるそうだ。
「特殊な条件? 俺がそれをしたって事か?」
『ええそうです。主がこの島――神釣り島へ来たことが一つ』
さらに説明は続く。どうやらあの金色の疑似餌を見つけた事と、それに触れて無事だった事が原因らしい。
通常は見ることはおろか、見えても触れることが不可能だし、何かの理由で間違って触れでもしたら命を落とすらしい。
『さらにイレギュラーな事態が起こったと、忌々しい〝理〟から説明がありました。それがあのゴッド・ルアーに触れた時に負った指の傷です』
「確かにそんな事を言っていた気がする……それでそいつが俺がこんなチンチクリンになった原因だってのか?」
『ええ。この神釣り島にある、特殊な病原菌に感染したらしく、一気に体が崩壊したようですね。ただ根本的な原因は、〝理〟が主の体をこの世界に馴染ませようと、何かをしていたんでしょう』
確かに今思えば恐ろしいほどに、体が内部から崩れていく感覚と痛み。そして強烈な飢えに似た乾きが俺を襲った。
棒っきれの話は続き、どうやらあのルアーを手に入れた事でこの島の所有者になったとの事。
勝手にきめるなと当然抗議するが、当の〝理〟がすでにいない。
「つまり俺の体が崩壊した原因ってのが、ココの所有者になるために、〝理〟の力で体に何か細工された。それが原因であんな事になった結果が今の体ってワケか?」
『そうです。主をこの世界に対応した体に作り変えていたはずですが、そこに風土病が悪さをした結果、異常な速さで死に至ったのでしょう。それがここまでの話ですね』
棒っ切れがいうように、本当に〝理〟という存在はろくでもないらしい。
そう思いながら、これまでの事に納得しつつ別の疑問が生まれた。