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激しい衝撃が私の左ほほに張り付く。
その衝撃で壁に激突したと同時に、背中と左ほほが強烈に痛みを感じて呼吸がとまる。
「オラッ! 元・聖女様、大人しく船室にはいってろ! 二度と身投げなんてするんじゃねえぞ! クソカスがッ!!」
「もういいだろ。こんな呪われた娘でも、まだ使い道はあるらしいからな。逃げようとしても無駄だぞ、また落ちても上から見ているからな?」
人相が怖い兄上の部下はそう言うと、苦しむ私をもう一度けりあげてから去る。
苦しくて涙がこぼれ落ちたけど、もっと涙があふれ出たのは別の理由がある。
そう、あの蒼髪の少年と別れた事による悲しみで、また涙が心から湧き落ちた。
「ごめんなさい……私が来たばかりにヤマトさんに迷惑をかけちゃって」
彼に黙って島を離れてしまった事に罪悪感をいだきつつ、これでよかったんだと自分に言い聞かせる。
兄と妹が、私を殺そうとしているのは分かるし、それが聖女の力を奪うためだと言うのも分かる。
それはいいの。だってどこにいようが、私の居場所は胸の中にある聖石が彼らにおしえるのだから……。
でも本心にはうそをつけない。
悲しくてかなしくて、また涙がほほを伝いおちて思わず下を向く。
島へ漂着してから短い思い出だったけれど、太陽よりも輝いていた毎日を思い出すと胸がしめつけられる。
ヤマトさんに初めて釣りを教えてもらって釣り上げた、すっごく大きなお魚に初めて心がおどったっけ。
生きたお魚にはびっくりしたけど、なんとか頑張ってお手伝いしたのも楽しかったな。不器用って笑われたけど。
それを焼いてたべて本当に感動した。
だってはじめての温かい食事を食べたんだもの、しかたないよ。
でもそんな私が涙をながして感動してたのに、ヤマトさんは私を見て笑ったっけ……。
色々な物を作り、失敗し、それでもめげずに頑張ってつくった島の思い出。
子狐ちゃんとピヨちゃんの、もふもふコンビも最高に可愛かったし、ちょっと毒舌な執事さんも優しかったっけ。
見たこともない美しい自然と、貴重な植物や資源。
それがあの神釣島にはある。
それを知った兄は、大軍を送り込んできた。
「私の命ならいざしらず、邪な考えであの島を手に入れ破壊しようだなんて、絶対にゆるせない」
そう思うと痛みは吹き飛び、もう一度大魔法を行使しようと準備に入る。
それはまだ島からそうは離れていない今がラストチャンス。
聖女の力をフルバーストさせて、元々封印されていたあの島全体を、強力な結界で再封印してしまう。それしかない。
だからこそ水の女神の力を借りるため、海へもう一度飛び込もうと船室の小さな窓へと向かう。
「あの島と、ヤマトさんだけは守ってみせる。この命と引き換えにしても必ず」
そう強く決心し、窓のふちへ手をかけた瞬間だった。
黄金色に輝く、生きているとしか思えない小魚の形をした疑似餌が窓から飛び込んできて、窓のふちへとフックが引っかかる。
『よぅ、ひさしぶりだな。数時間ぶりか?』
ルアーから声がし、思わず「ヤマトさんなの?!」と叫んでから口を両手でおおう。
『ったく、黙って出ていくとかアイツらが悲しむぞ?』
その声の後ろから、色々な声が聞こえてくる。どうやら怒っているみたい。
おもわず「ご、ごめんなさい。でも来ちゃダメ! 今から島を――」と言うと、言葉を被せてヤマトさんが話す。
『デモもヘチマもねぇよ。もうすぐソコまで来ているからな』
その言葉に「え!?」と言いながら、窓のそとへ首を出す。
するとふよふよと黄色い何かが飛んできており、それを見つけた甲板員が騒ぎ始めた。
『待ってろ、今すぐたすけてやる!!』
そう言うと黄金のルアーは凄い速さで巻き戻り、ヤマトさんの元へと向かっていく。
◇◇◇
戻ってきたルアーを回収し、遠くにいる船をにらみながら相棒と話す。
「ったく、寝起きの運動は苦手だってのに」
『よくいいますよ。釣りの時は朝だろうが夜だろうが、お元気だというのに』
苦笑いしながら「ちがいないね」と言いながら、握りしめた竿に思い切り力をコメながら話す。
「さっさと終わらせて飯にしようぜ? もうハラヘリの民が暴れ出す寸前だわ」
『ですね。ではさっさと釣り上げて終わらせましょうか』
その言葉に「ああ」とうなずきながら、まさか自分が蒼髪の少年の姿に改変され、しかも釣り竿一本で軍艦に挑むことになるだなんて思いもしなかった。
そう、あの瀬戸内の海で真っ赤な怪魚を釣るまでは……。
激しい衝撃が私の左ほほに張り付く。
その衝撃で壁に激突したと同時に、背中と左ほほが強烈に痛みを感じて呼吸がとまる。
「オラッ! 元・聖女様、大人しく船室にはいってろ! 二度と身投げなんてするんじゃねえぞ! クソカスがッ!!」
「もういいだろ。こんな呪われた娘でも、まだ使い道はあるらしいからな。逃げようとしても無駄だぞ、また落ちても上から見ているからな?」
人相が怖い兄上の部下はそう言うと、苦しむ私をもう一度けりあげてから去る。
苦しくて涙がこぼれ落ちたけど、もっと涙があふれ出たのは別の理由がある。
そう、あの蒼髪の少年と別れた事による悲しみで、また涙が心から湧き落ちた。
「ごめんなさい……私が来たばかりにヤマトさんに迷惑をかけちゃって」
彼に黙って島を離れてしまった事に罪悪感をいだきつつ、これでよかったんだと自分に言い聞かせる。
兄と妹が、私を殺そうとしているのは分かるし、それが聖女の力を奪うためだと言うのも分かる。
それはいいの。だってどこにいようが、私の居場所は胸の中にある聖石が彼らにおしえるのだから……。
でも本心にはうそをつけない。
悲しくてかなしくて、また涙がほほを伝いおちて思わず下を向く。
島へ漂着してから短い思い出だったけれど、太陽よりも輝いていた毎日を思い出すと胸がしめつけられる。
ヤマトさんに初めて釣りを教えてもらって釣り上げた、すっごく大きなお魚に初めて心がおどったっけ。
生きたお魚にはびっくりしたけど、なんとか頑張ってお手伝いしたのも楽しかったな。不器用って笑われたけど。
それを焼いてたべて本当に感動した。
だってはじめての温かい食事を食べたんだもの、しかたないよ。
でもそんな私が涙をながして感動してたのに、ヤマトさんは私を見て笑ったっけ……。
色々な物を作り、失敗し、それでもめげずに頑張ってつくった島の思い出。
子狐ちゃんとピヨちゃんの、もふもふコンビも最高に可愛かったし、ちょっと毒舌な執事さんも優しかったっけ。
見たこともない美しい自然と、貴重な植物や資源。
それがあの神釣島にはある。
それを知った兄は、大軍を送り込んできた。
「私の命ならいざしらず、邪な考えであの島を手に入れ破壊しようだなんて、絶対にゆるせない」
そう思うと痛みは吹き飛び、もう一度大魔法を行使しようと準備に入る。
それはまだ島からそうは離れていない今がラストチャンス。
聖女の力をフルバーストさせて、元々封印されていたあの島全体を、強力な結界で再封印してしまう。それしかない。
だからこそ水の女神の力を借りるため、海へもう一度飛び込もうと船室の小さな窓へと向かう。
「あの島と、ヤマトさんだけは守ってみせる。この命と引き換えにしても必ず」
そう強く決心し、窓のふちへ手をかけた瞬間だった。
黄金色に輝く、生きているとしか思えない小魚の形をした疑似餌が窓から飛び込んできて、窓のふちへとフックが引っかかる。
『よぅ、ひさしぶりだな。数時間ぶりか?』
ルアーから声がし、思わず「ヤマトさんなの?!」と叫んでから口を両手でおおう。
『ったく、黙って出ていくとかアイツらが悲しむぞ?』
その声の後ろから、色々な声が聞こえてくる。どうやら怒っているみたい。
おもわず「ご、ごめんなさい。でも来ちゃダメ! 今から島を――」と言うと、言葉を被せてヤマトさんが話す。
『デモもヘチマもねぇよ。もうすぐソコまで来ているからな』
その言葉に「え!?」と言いながら、窓のそとへ首を出す。
するとふよふよと黄色い何かが飛んできており、それを見つけた甲板員が騒ぎ始めた。
『待ってろ、今すぐたすけてやる!!』
そう言うと黄金のルアーは凄い速さで巻き戻り、ヤマトさんの元へと向かっていく。
◇◇◇
戻ってきたルアーを回収し、遠くにいる船をにらみながら相棒と話す。
「ったく、寝起きの運動は苦手だってのに」
『よくいいますよ。釣りの時は朝だろうが夜だろうが、お元気だというのに』
苦笑いしながら「ちがいないね」と言いながら、握りしめた竿に思い切り力をコメながら話す。
「さっさと終わらせて飯にしようぜ? もうハラヘリの民が暴れ出す寸前だわ」
『ですね。ではさっさと釣り上げて終わらせましょうか』
その言葉に「ああ」とうなずきながら、まさか自分が蒼髪の少年の姿に改変され、しかも釣り竿一本で軍艦に挑むことになるだなんて思いもしなかった。
そう、あの瀬戸内の海で真っ赤な怪魚を釣るまでは……。