―――いと、海斗!

「海斗ってば!」

 はっとして、顔を上げれば茉優が俺の肩を揺らしていた。

「聞いてるの? この写真、本当に海斗じゃないんだよね?」
「……………」
「ねえ……大丈夫?」

 訝し気に俺の顔を覗き込んでくる茉優。

「顔色が悪いよ?」

 俺のことを心配してくれている茉優。
 俺のことが好きな筈な、幼馴染の茉優。
 小野と柴山の写真は、彼女にしか見せたことがない。
 結局あの後も、俺自身がSNSで有名になってしまったから暴露をせずに端末の中に入れたままだった。
 だから、あの更新をするためにはまず〝写真に写った人物が、この学校の先生と生徒であることを知らなければならない〟筈だ。
 俺のスマホからどうやって写真を抜きとったかはわからないが、あの写真の存在を唯一知っている茉優が、乗っ取りである可能性は十分ある。

「お前か……」
「え……?」
「お前がやったのか!?」

 肩に触れていた茉優の手を叩くように払う。
 大声を出せば、教室中の注目がこちらに向いた。

「うわっ、何アレ……」
「酷い、西荻さんに当たってるの?」
「注目されたいからってよくやるよね……」
「前々からそんな感じじゃなかった? 自意識過剰っていうか……」

 前から、背中から、右から、左から。
 360度、どこからでも聞こえるクラスメイト達の囁き声に、俺は辺りを見回した。

「か、海斗……どうしちゃったの?」

 俺に思いっきり叩かれた手を擦りながら、茉優が少し泣きそうな声で訴えた。
 これではまるで、俺が悪者みたいだ……。

「茉優、お前が……!」

 キーン、コーン、カーン、コーン。
 いつもの予鈴が鼓膜を突き刺すように大きく聞こえる。

「海斗……また後でちゃんと話そう」

 心配するような眼差しを俺に向けつつ、茉優は教室から去っていった。
 どっ、どっ、と気づけば心臓が皮膚を突き破って外に出てきそうなほど、大きく鳴り響いていた。
 アカウントを乗っ取った犯人が茉優だったなら、あんな風に俺を見るか……?
 でもあの写真の存在は、茉優しか知らないはずだ。
 誰かがスマホの中を、覗きでもしない限り。