「―――海斗くん。今日、一緒に帰れる?」
「あ、茉優。わり、三年の北島先輩に呼ばれて今日帰り遅くなるわ」
「え……?」
「てか茉優知ってる? 北島先輩ってこの前、彼氏と別れたばっかなんだって。俺ワンチャンありそうじゃね?」
「か、海斗くん、北島先輩好きだったっけ?」
「ううん? でも美人じゃん。俺ああいうの結構タイプ」
「榊ー! ちょっと来てくれるー? 土曜の集まりの話だけど~」
「あ、呼ばれてるわ。んじゃな、茉優。お前もたまにはクラスの友達と遊べよ」
「あっ……」

 高校一年の後半は、一体どんな暮らしをしていたか詳細には思い出せない。
 SNSの更新に夢中になり、恋人関係はもちろん、友人関係にも変化が激しい日々。正直、毎日が芸能人のように忙しかった。
 そんな高校一年生が終わり、二年生に上がる頃。
 春休みに入り、暫く顔を合わせていなかった茉優が激変していた。
 長くてもっさりした黒髪を染めて、レンズの分厚い眼鏡を外してコンタクトにして。
 さらにはSNSまで始めて、美容系インフルエンサーとして少しずつだが上手くいっているようだった。

「海斗く……海斗に言われて、変えてみたの。どう?」
「あ、ああ。いいんじゃね?」

 まさか地味な幼馴染がここまで化けるとは思わなかった。
 なんとなく北島先輩に似ている。
 それを何気なく言ってみたら「そうだよ」と茉優は言った。

「北島先輩のマネしてみたんだ。海斗が美人って言ってたから」

 その言葉に、薄々と勘づいていた好意に確信を得た。
 茉優は俺のことが好きなんだ。だから、俺が好きだと思ったものになろうとするし、いまいち俺を否定しきれない。

「へえ、いいじゃん」

 なら、その気持ちを上手く使わないと勿体ないよな。きっと茉優だって、俺が幼馴染として隣に並んでいることを誇りに思っているだろうから。

「似合ってるよ。前の茉優、あんまり好きじゃなかったから今の方がタイプだな」