自分のSNSのアカウントが乗っ取られたのは、夏休み最後の8月31日、夜二十一時過ぎの出来事だった。
俺は眉を顰めて、自分のアカウントかどうかを再確認する。
@sakakikaki1211
IDは確かに自分の使っていたアカウントのもので、俺は寝そべっていた身体を起こしてベッドの上に座り直した。
うわあ、乗っ取りって本当にあるんだな……。
《えっ、サカキどうしたの?》
《これは通報》
《サカキの偽アカウント?》
《殺人予告とかやばくね? さすがにのっとりでしょ》
呟きについた、多くのコメントを流し見する。
俺のSNSはそこそこ有名で、フォロワー数も軽く十数万はいくアカウントだ。
高校生インフルエンサーとして、朝の情報番組で軽く取り上げられたことだってある。
主に日常をメインとした呟きが多いから個人情報の特定もされやすく、知っている人はすぐに俺のことを調べ上げてきた。
とはいえ、私生活を脅かされるようなことはされてこなかったし、一般人としては大手のアカウントだから、今まで乗っ取りまがいのサイバー攻撃を受けたこともあった、けど……こうして実際に乗っ取られたのは初めてのことだった。
「面倒くさいな……」
急いでアカウントにログインをしようとすれば、パスワードエラーでログインが出来ない。
まじかよ、と今一度、偽物が呟いた内容を確認していれば。
《乗っ取りじゃないよ~(^^♪》
また新たな呟きが投稿される。しかも挑発されているみたいな、そんな内容だった。
「はあ? 人のアカウントで何を書いてんだ、この偽物……」
苛立ちながら、再びログインを試す。
―――【パスワードが違います】
ダメだ。弾かれる。ああ、くそ!
運営に問い合わせても、時間がかかるだろう。
どうしたものか。
あ、そうだ。
『茉優、お前のアカウントで俺のアカウント乗っ取られてるって言ってくんね?』
俺は、メッセージアプリで同級生の西荻茉優に連絡をした。
幼馴染の茉優は、同じSNSをやっていてフォロワーも俺には及ばないが、まあまあ多く、たまにネット上でも絡んでいる。
『え? 乗っ取り?』
ピコン、とスマホにメッセージが来る。なんだ、まだ気づいてないのか。
『そうだよ。乗っ取り』
『見てきた。殺人予告とかやばすぎ笑』
『お前のアカウントで訂正しといて』
『いいけど、これほんとは海斗が書いてんじゃないの?笑』
『このアカウントでするわけねえだろ。はよ言ってこい』
『んーわかった』
茉優とやり取りを終えて、息を吐く。
アカウントが手元に戻ってくるまで気が気じゃない。
SNSでここまで有名になるために、どれほど頑張ったと思ってるんだ……。
せっかくの努力を誰かに奪われるなんてまっぴらごめんだ。
「一体どこのどいつの仕業だよ……」
二段階認証すら抜けるとは、かしこいアンチもいたものだ。
SNSのお問い合わせにも乗っ取りの件で連絡をした。どうせ数日のうちにアカウントは戻って来るだろう。
「お兄ちゃーん、洋子さんがスイカ切ったから早く来てって言ってるよー」
「んー。今行く」
今日は夏休み最後だというのに、ツいてない。
犯人め、特定したらただじゃおかないからな。
俺はそんなことを思いながら切られたスイカを夏の終わりの記念にスマホのカメラに収めた。