「大丈夫、海斗。身体の調子はどう?」

 俺のいるベッドに来ると、母は優しく声を掛けてきた。

「うん、今は平気……」

 こんな惨めな姿を親に見られるとは。本当に情けない。

「海斗が学校に戻りたくなかったら、いつでも言ってね。お母さんはあなたの味方だから」
「ははっ、心配しすぎ。トラブルに巻き込まれただけだから、大丈夫だよ。俺を待ってる人だっているしさ。……言ったろ? 学校じゃ、母さんが想像できないくらい俺は人気者なんだって」

 笑顔で答えれば「見栄をはらなくても……」と母の口が動いたので、俺は即座に「母さん」と強く遮った。

「見栄じゃない。事実だから」
「……そうね、海斗くんだものね」
「それで何? それを言うためだけに来たわけじゃないでしょ?」
「ええ」

 頷いた母は、少し言い辛そうに告げた。

「もうすぐ墓参りでしょう? 正治さんと理恵子さんの」
「……ああ」

 もうそんな時期か。
 榊正治は父の弟で、理恵子さんは正治さんの奥さん。
 つまり俺からしたら叔父と叔母に当たる人たちだった。
 そんな人たちの命日が、じきに迫っていた。

「行けそう? もし身体の調子が悪かったら……」
「行けるよ。だって行かないとさ」
「ええ……そうね」

 夫妻は十年前、不慮の事故で亡くなった。
 そのため、この話をするときは母も俺も沈んだ空気の中で、言い訳を探すように必死に言葉を吐き出そうとする。だけどその度に、上手く口が動かなくなる。
 母もそれ以上言うことがなかったのか、立ち上がった。
 俺は咄嗟に「玲奈には?」と口を開いた。

「もう言ってあるわ」
「そう」
「……海斗」

 母は伏し目がちになって、言葉を付け足していく。

「インターネットもほどほどにしなさいね、玲奈ちゃん。心配してたから」
「……ああ、わかったよ」

 俺の部屋を出て行く母を見ながら、俺は思う。
 毎年この時期が、一番。

「……だる」