「ねぇ、八月の第四土曜日秋田に来ない?」
歩実香から誘われた秋田の花火大会。確か大曲とかいう所で行われる花火大会らしい。
地元ではかなり有名な花火大会だと歩実香は言っていた。
もう離れて暮らすようになってかなりの時間が流れている。お互いこの生活にいずれはなれるだろうと思っていたのが甘かったのかもしれない。
遠距離恋愛は続かないよ。
友人たちからも口をそろえるように言われ続け、それでも僕たちはお互いを信じこの生活を受け入れようと必死になっていた。
メールやSNSで通話していても触れることは出来ない彼女の姿を、彼女の放つ意思と雰囲気を感じることは出来ない。
限界というのはあるものだ……
そう僕が感じている以上に、歩実香の方はもっと苦しんでいるのかもしれない……いや、この場合悲しんでいるといった方が僕にとっては心が休まる。
歩実香は意地が強い。表に出さないけど、物凄い意地っ張りだ。
彼女が卒業式の前日僕の前で倒れ、病院に搬送された時、自ら振られ告白を受けに具合の悪い中来て倒れてしまった。
確かに、はっきりとした答え?返事をしなかった僕にも大いに責任はあるし、今思えばほんとうに意気地なしだと思う。
彼女はちゃんと僕に好きだと告白してくれていたのに、それを僕はあえて無視するような形とまでは言わないが、何の返事も返さなかった。
だから彼女歩実香が入院するような羽目になってしまった。しかも卒業式の当日は病院で安静にしていないといけない。風をこじらせて肺炎になりかけていたんだから……。
その当事者の僕の気持ちは本当はどうなんだ?
正直に僕は歩実香先輩が好きだった。
バスケ部のキャプテンと付き合っているのも知っていたし、別れたのも知っている。
それでも僕は歩実香に好きだと一言素直な気持ちを言うことが出来ていなかった。
そう、僕は意外とプライドが高かったのかもしれない。今だから言えるのだが、そのプライドと意気地なしの僕が返事を放置してしまっていたんだと思う。
卒業式の日、僕は朝一番に学校に行かず歩実香が入院している病院に向かった。
今しかない、この時を逃したら僕は一生後悔すると思う。
一晩眠らずにずっと歩実香の事を考えていた。
そして、真夜中に送られてきた歩実香からの「大丈夫だよ」と書かれたメールを見て、どこまで僕は情けないんだと涙が出てきた。本当の、僕の素直な気持ちを僕は歩実香に言うべきだ。
本当は先輩が好きだと……。
カッコよさなんかいらない。詰まんない理屈?それは単なる自分の言い訳に過ぎない。部活も辞めたし先輩は今日卒業する。
学校の奴らなんかもう関係ない誰かの目なんて気にしない。
今日僕は歩実香に告白する
そこがどこでもいい……例え彼女が入院する病院であっても
赤信号が青に変わるのが異常に長く感じる。電車に飛び乗り、目的の二つ先の駅つくまでまるで長距離を走る列車に間違えて乗ったよう気がしてたまらなかった。
病院の朝早いホールは人の姿もまばら、エレベータは上の階から降りてくるのに時間がかかりそうだ。いやそんなのを待っている余裕すらない。会談で5階まで駆け上がる。息が切れる。やっぱりエレベーターくらいは待つべきだったかもしれない。
歩実香がいる病室のドアの前に立った時もすでに息は上がっていた。
後戻りはしない。
そう決めてきた。
このドアの向こうには歩実香がいる。
ドアの取っ手に手をかけ意を決して開けようとした瞬間
あどけない声で僕の後ろから。
「おはよう杉村君。どうしたのこんな朝早くから」
出鼻くじかれるとはこのことかもしれない……。
……いや、あのぉ……。
さっきまでの勢いはどっかに吹っ飛んでしまった。
「ねぇ、貴方今こんなところにきて大丈夫なの?今日卒業式じゃない。学校行かないといけないんじゃないの」
なんかちょっとムカッと来た。
「なんだようせっかく朝早くから来たのに……それにどうして病室にいなかったんだよ」
「はぁ、なに言ってんのよ。あなたこの期に及んでこんな朝早くから私に喧嘩でも売りに来たの?それともしつこいこんな私に嫌がらせでもしに来た?」
「そんなことより、なんで病室のベッドに寝てないんだよ。これじゃ考えてきたこと何も出来ないじゃないか」
「ちょっとおトイレにいくくらい別にいつ行ったっていいじゃないの。それとも私、今にでも死にそうな重病患者だとでも思っていたの」
「………ト、トイレ……」
ちょっと恥ずかしそうに。
「そうよ、おトイレよ……」
一気に力が抜けた。
「そうだよなトイレくらい行くよな。それに言ったように死にそうなくらい重病じゃないよな……。はぁ……俺ってどうしてこうなんだろう。何もかんがえてなかったよ自分の事しか頭になくて……朝一番に先輩に好きだって言おうと活き込んできたのに………ああ、なんだか一気に疲れた」
「………………あのぉ杉村君」
「な、なんですか先輩」
さすがに階段で5階はつらい……しかもほとんど寝ていないからもう呆然とした状態のまま先輩の顔を見上げると
真っ赤な顔をしていた。
「先輩また熱上がったんじゃないんですか? 顔赤いですよ」
「馬鹿ぁ……そうじゃなくて、杉村君さっき言ったこと本当なの?」
「はぁ、だから何ですか? おトイレの事ですか?」
「そ、そうじゃなくて……貴方ここに何しに来たのかってことよ」
「はぁ、僕は歩実香先輩が好きだって言う事を言うために来ただけなんですけど……」
数秒後、今度は僕の顔が赤く染まってしまった。
「あ、あのぉ……」
最悪だ……プライドもカッコよさも何もない。
「本当? 信じてもいいの?」
火が出るほど熱くなった顔をコクコクを動かすことしかできなかった。
「ありがとう」先輩は僕の首に手をまわして抱き着いてきた。
緊張の糸がプツリと切れたのかもしれない。
気が付いたときは歩実香が寝ていないといけないベッドに僕が寝ていた。
「す、すみません僕……」
すぐに起き上がろうとしたが。
「いいのよ。あなたの寝顔物凄く可愛いからずっと見ていたの……」
「雅哉の寝顔ってあの頃と変わんないのね」
「それって成長していないってこと?」
「んーそれもあるかなぁ」
「おいおい」
「嘘よ。あなたの寝顔いつみても可愛いって言いたいのよ」
「全くそれこそ成長していないて言っているのと同じじゃないか」
「そっかぁ、それじゃそういうことにしておいてよ。私にとって雅哉はあのころから何も変わっていないんだもの。ただあなたを思う気持ちに関してはね」
秋田空港に降り立ち始めて訪れた秋田の地。
なんだかすごく新鮮な感じを受けた。
そして、久しぶりに目にする歩実香の姿。僕は歩実香が運転する車の助手席で眠ってしまっていたらしい。
「夢を見ていたよ」
「どんな夢?」
「僕が歩実香に告った時の夢」
「まだ引きずってんの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、ものすごく懐かしくてさ。久しぶりに歩実香に会えたからかもしれないな」
「そっかぁ、じゃぁ私はどんな夢を見ればいいんでしょうかね。もう少しで先生と呼ばれる方に訊きたいんですけど」
「まだだよ。国家試験受からないとと何にも意味ないよ。それに初期研修は必須だからね。それからだよ先生って呼んでもいいのは」
「あら随分と自信なさげです事、杉村雅哉先生」
「お前、こっちに来てからまた強くなったんじゃないか?」
「そうぉ、鍛えられちゃったかしら……それに少し太っちゃった。ごはんおいしんだもん」
「そういえば少しふくよかになったよな。胸のあたりが……」
「馬鹿ぁ、ちょっとは気使って否定してよ。気にしてんだから」
「ごめんごめん、変わってないよ歩実香は、全然」
「それフォローになってない」
ほんとうに久しぶりに会う歩実香。彼女は何も変わっていない。僕を見つめるあのまなざし、そして僕の事を一番に気持ちを汲んでくれるその心遣い。
そう、歩実香は何も変わっていなかった。
変わったとすれば、それは僕の方なのかもしれない。
僕の前から歩実香の姿がいなくなった時、僕はどれだけ彼女に支えられていたのかと痛感した。
僕は歩実香なくしてはその存在さえも希薄な人間なんだと気が付いた。
歩実香から誘われた秋田の花火大会。確か大曲とかいう所で行われる花火大会らしい。
地元ではかなり有名な花火大会だと歩実香は言っていた。
もう離れて暮らすようになってかなりの時間が流れている。お互いこの生活にいずれはなれるだろうと思っていたのが甘かったのかもしれない。
遠距離恋愛は続かないよ。
友人たちからも口をそろえるように言われ続け、それでも僕たちはお互いを信じこの生活を受け入れようと必死になっていた。
メールやSNSで通話していても触れることは出来ない彼女の姿を、彼女の放つ意思と雰囲気を感じることは出来ない。
限界というのはあるものだ……
そう僕が感じている以上に、歩実香の方はもっと苦しんでいるのかもしれない……いや、この場合悲しんでいるといった方が僕にとっては心が休まる。
歩実香は意地が強い。表に出さないけど、物凄い意地っ張りだ。
彼女が卒業式の前日僕の前で倒れ、病院に搬送された時、自ら振られ告白を受けに具合の悪い中来て倒れてしまった。
確かに、はっきりとした答え?返事をしなかった僕にも大いに責任はあるし、今思えばほんとうに意気地なしだと思う。
彼女はちゃんと僕に好きだと告白してくれていたのに、それを僕はあえて無視するような形とまでは言わないが、何の返事も返さなかった。
だから彼女歩実香が入院するような羽目になってしまった。しかも卒業式の当日は病院で安静にしていないといけない。風をこじらせて肺炎になりかけていたんだから……。
その当事者の僕の気持ちは本当はどうなんだ?
正直に僕は歩実香先輩が好きだった。
バスケ部のキャプテンと付き合っているのも知っていたし、別れたのも知っている。
それでも僕は歩実香に好きだと一言素直な気持ちを言うことが出来ていなかった。
そう、僕は意外とプライドが高かったのかもしれない。今だから言えるのだが、そのプライドと意気地なしの僕が返事を放置してしまっていたんだと思う。
卒業式の日、僕は朝一番に学校に行かず歩実香が入院している病院に向かった。
今しかない、この時を逃したら僕は一生後悔すると思う。
一晩眠らずにずっと歩実香の事を考えていた。
そして、真夜中に送られてきた歩実香からの「大丈夫だよ」と書かれたメールを見て、どこまで僕は情けないんだと涙が出てきた。本当の、僕の素直な気持ちを僕は歩実香に言うべきだ。
本当は先輩が好きだと……。
カッコよさなんかいらない。詰まんない理屈?それは単なる自分の言い訳に過ぎない。部活も辞めたし先輩は今日卒業する。
学校の奴らなんかもう関係ない誰かの目なんて気にしない。
今日僕は歩実香に告白する
そこがどこでもいい……例え彼女が入院する病院であっても
赤信号が青に変わるのが異常に長く感じる。電車に飛び乗り、目的の二つ先の駅つくまでまるで長距離を走る列車に間違えて乗ったよう気がしてたまらなかった。
病院の朝早いホールは人の姿もまばら、エレベータは上の階から降りてくるのに時間がかかりそうだ。いやそんなのを待っている余裕すらない。会談で5階まで駆け上がる。息が切れる。やっぱりエレベーターくらいは待つべきだったかもしれない。
歩実香がいる病室のドアの前に立った時もすでに息は上がっていた。
後戻りはしない。
そう決めてきた。
このドアの向こうには歩実香がいる。
ドアの取っ手に手をかけ意を決して開けようとした瞬間
あどけない声で僕の後ろから。
「おはよう杉村君。どうしたのこんな朝早くから」
出鼻くじかれるとはこのことかもしれない……。
……いや、あのぉ……。
さっきまでの勢いはどっかに吹っ飛んでしまった。
「ねぇ、貴方今こんなところにきて大丈夫なの?今日卒業式じゃない。学校行かないといけないんじゃないの」
なんかちょっとムカッと来た。
「なんだようせっかく朝早くから来たのに……それにどうして病室にいなかったんだよ」
「はぁ、なに言ってんのよ。あなたこの期に及んでこんな朝早くから私に喧嘩でも売りに来たの?それともしつこいこんな私に嫌がらせでもしに来た?」
「そんなことより、なんで病室のベッドに寝てないんだよ。これじゃ考えてきたこと何も出来ないじゃないか」
「ちょっとおトイレにいくくらい別にいつ行ったっていいじゃないの。それとも私、今にでも死にそうな重病患者だとでも思っていたの」
「………ト、トイレ……」
ちょっと恥ずかしそうに。
「そうよ、おトイレよ……」
一気に力が抜けた。
「そうだよなトイレくらい行くよな。それに言ったように死にそうなくらい重病じゃないよな……。はぁ……俺ってどうしてこうなんだろう。何もかんがえてなかったよ自分の事しか頭になくて……朝一番に先輩に好きだって言おうと活き込んできたのに………ああ、なんだか一気に疲れた」
「………………あのぉ杉村君」
「な、なんですか先輩」
さすがに階段で5階はつらい……しかもほとんど寝ていないからもう呆然とした状態のまま先輩の顔を見上げると
真っ赤な顔をしていた。
「先輩また熱上がったんじゃないんですか? 顔赤いですよ」
「馬鹿ぁ……そうじゃなくて、杉村君さっき言ったこと本当なの?」
「はぁ、だから何ですか? おトイレの事ですか?」
「そ、そうじゃなくて……貴方ここに何しに来たのかってことよ」
「はぁ、僕は歩実香先輩が好きだって言う事を言うために来ただけなんですけど……」
数秒後、今度は僕の顔が赤く染まってしまった。
「あ、あのぉ……」
最悪だ……プライドもカッコよさも何もない。
「本当? 信じてもいいの?」
火が出るほど熱くなった顔をコクコクを動かすことしかできなかった。
「ありがとう」先輩は僕の首に手をまわして抱き着いてきた。
緊張の糸がプツリと切れたのかもしれない。
気が付いたときは歩実香が寝ていないといけないベッドに僕が寝ていた。
「す、すみません僕……」
すぐに起き上がろうとしたが。
「いいのよ。あなたの寝顔物凄く可愛いからずっと見ていたの……」
「雅哉の寝顔ってあの頃と変わんないのね」
「それって成長していないってこと?」
「んーそれもあるかなぁ」
「おいおい」
「嘘よ。あなたの寝顔いつみても可愛いって言いたいのよ」
「全くそれこそ成長していないて言っているのと同じじゃないか」
「そっかぁ、それじゃそういうことにしておいてよ。私にとって雅哉はあのころから何も変わっていないんだもの。ただあなたを思う気持ちに関してはね」
秋田空港に降り立ち始めて訪れた秋田の地。
なんだかすごく新鮮な感じを受けた。
そして、久しぶりに目にする歩実香の姿。僕は歩実香が運転する車の助手席で眠ってしまっていたらしい。
「夢を見ていたよ」
「どんな夢?」
「僕が歩実香に告った時の夢」
「まだ引きずってんの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、ものすごく懐かしくてさ。久しぶりに歩実香に会えたからかもしれないな」
「そっかぁ、じゃぁ私はどんな夢を見ればいいんでしょうかね。もう少しで先生と呼ばれる方に訊きたいんですけど」
「まだだよ。国家試験受からないとと何にも意味ないよ。それに初期研修は必須だからね。それからだよ先生って呼んでもいいのは」
「あら随分と自信なさげです事、杉村雅哉先生」
「お前、こっちに来てからまた強くなったんじゃないか?」
「そうぉ、鍛えられちゃったかしら……それに少し太っちゃった。ごはんおいしんだもん」
「そういえば少しふくよかになったよな。胸のあたりが……」
「馬鹿ぁ、ちょっとは気使って否定してよ。気にしてんだから」
「ごめんごめん、変わってないよ歩実香は、全然」
「それフォローになってない」
ほんとうに久しぶりに会う歩実香。彼女は何も変わっていない。僕を見つめるあのまなざし、そして僕の事を一番に気持ちを汲んでくれるその心遣い。
そう、歩実香は何も変わっていなかった。
変わったとすれば、それは僕の方なのかもしれない。
僕の前から歩実香の姿がいなくなった時、僕はどれだけ彼女に支えられていたのかと痛感した。
僕は歩実香なくしてはその存在さえも希薄な人間なんだと気が付いた。