数日後。
相変わらず僕は素振りを続けている。楽しいからではあるけど、兄からもっと繰り返して慣れる必要があると言われたからだ。
本当はもっと違う剣術とか学びたい。でも今のままでも十分楽しいし、こうして木剣を振り下ろす度に異世界に転生した実感が湧き出る。
体力づくりのために毎朝走り込みもするように言われた。兄と僕では体力や体格差があるので、コースは別々に走っている。僕はというと毎日噴水を通るようにしてたりする。
それと早朝でも村人達は仕事をしていて、いつ休んでいるのかと謎に思える。
毎日ウンディーネさんに挨拶は欠かさずにする。たまに忘れると寂しくなるからね。
家に戻るとそのまま剣術――――もとい、素振りの練習に入る。木剣を振り下ろすだけで重音が響くって異世界らしくて面白い。
風圧も感じられるくらい、僕が素振りした地面は周囲に広がるように土埃が立つ。
僕から少し離れた場所で兄も同じく素振りを続けている。
いつ見ても美しいと思う素振りに、僕も全力で真似る。いつか兄のように綺麗な素振りができたらいいな。まだ荒々しいので、もっと力を抜いて振り下ろすことを意識して繰り返す。
数時間後、家の中からお母さんの呼ぶ声で素振りを終える。ただ、向こうで素振りを続けている兄は夢中になって続けていた。
「お兄ちゃん~? お母さんからお昼だって~」
「…………」
声が届いてないはずはないんだけど、黙々と素振りを続ける。
「お兄ちゃん~?」
「…………」
「後で怒られても知らないよ?」
「…………」
僕に教えるために練習時間が減ってしまったせいなのかも知れない。
そう考えると僕という存在が兄にとって邪魔ではないのかと不安に駆られる。
家に入るとお父さんが笑顔で出迎えてくれる。
「ん? クレイはどうしたんだ?」
「えっと……まだ素振りを続けていて…………」
「…………ユウマが気にすることはない!」
そう言いながら大きな手で僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。少し強くて思わず目を瞑るけど、お父さんの大きな手からは優しさが伝わってくる。
「ユウマはお母さんの手伝いをしてあげて。お兄ちゃんは父さんに任せてくれ!」
「分かった!」
お父さんが家から出たのを確認して、テーブルに向かうと既に準備が終わっていてお母さんが座って優しい笑みを浮かべて待っていてくれた。
テーブルに座ってお父さんとお兄ちゃんを待つ。
ただし、ただ待っているだけではない。こういう時のためのスキルが存在する。
その名も――――地獄耳!
というのもスキルの名前は分からないけど、遠くの音を聞けるスキルを身に着けている。
恐らくお父さんかお母さんが持っていると思われるこのスキルは、村中の音を全て拾えるくらいに耳が良くなるスキルだ。
【クレイ。まだ素振りを続けていたのか】
【父さん…………】
【ユウマが気になるのか?】
【っ!?】
えっ!? お兄ちゃんが気にしてたのって……僕!?
【クレイ。ユウマは凄いな~】
【…………はい……】
【一発でクレイが練習していた真空斬りを真似ていたのには驚いた。でもな。逆にこういう考えもある】
【……?】
【ユウマに素振りを教えたのはクレイだ。確かにユウマにはとんでもない素質があるかも知れない。でもユウマ一人では絶対に成し遂げられなかっただろう。クレイの言葉や行動が弟であるユウマにとっては誰よりも受け入れやすかったのかも知れない】
【受け入れやすかった……?】
【ああ。その絆は親よりも深いかも知れない。ユウマはクレイの言葉だからこそ信じて、何一つ疑う事なくクレイの全てを真似た。だからできたんだと思う。もし嘘だと思うなら試してみるかい?】
【試してみる?】
【ああ。いいことを教えてあげよう】
何となくこれ以上盗み聞きはいけないと思ったので、スキルを切る。
「二人とも遅いわね~」
「お兄ちゃん凄く頑張ってるから~」
「そうね。クレイもユウマも頑張ってるものね。ユウマ? ユウマはどうして剣術を学びたいの?」
ふと、お母さんが質問を投げかけてくる。
剣術を学びたい理由か…………暇つぶしも理由の一つではあるけど、今の僕にとって剣術は娯楽でもあり、達成感を味わう事ができる貴重な目標でもある。
それに――――
「お兄ちゃんの剣。凄く綺麗だった! 僕もあんな風になりたいんだ!」
僕の前で初めて兄が振り下ろした時の事は今でも目に焼き付いている。思い出すだけで心臓が跳ね上がる程にワクワクする。
だからそれは嘘でも何でもなく、これまでもこれからも僕にとって大きな目標だ――――――兄のようになりたいという。
「ふふふ。ユウマならきっとクレイみたいに立派な剣士になれると思うわよ」
「うん! なる! 毎日頑張る!」
「ふふっ。あら、練習お疲れ様~クレイ」
「お兄ちゃん! スープ冷めちゃうよ~」
お父さんと一緒に入って来た兄は少しだけ清々しい表情を浮かべていた。
そして、今日も美味しい昼食を食べて、少しだけ昼寝して、また素振りの練習を行った。
相変わらず僕は素振りを続けている。楽しいからではあるけど、兄からもっと繰り返して慣れる必要があると言われたからだ。
本当はもっと違う剣術とか学びたい。でも今のままでも十分楽しいし、こうして木剣を振り下ろす度に異世界に転生した実感が湧き出る。
体力づくりのために毎朝走り込みもするように言われた。兄と僕では体力や体格差があるので、コースは別々に走っている。僕はというと毎日噴水を通るようにしてたりする。
それと早朝でも村人達は仕事をしていて、いつ休んでいるのかと謎に思える。
毎日ウンディーネさんに挨拶は欠かさずにする。たまに忘れると寂しくなるからね。
家に戻るとそのまま剣術――――もとい、素振りの練習に入る。木剣を振り下ろすだけで重音が響くって異世界らしくて面白い。
風圧も感じられるくらい、僕が素振りした地面は周囲に広がるように土埃が立つ。
僕から少し離れた場所で兄も同じく素振りを続けている。
いつ見ても美しいと思う素振りに、僕も全力で真似る。いつか兄のように綺麗な素振りができたらいいな。まだ荒々しいので、もっと力を抜いて振り下ろすことを意識して繰り返す。
数時間後、家の中からお母さんの呼ぶ声で素振りを終える。ただ、向こうで素振りを続けている兄は夢中になって続けていた。
「お兄ちゃん~? お母さんからお昼だって~」
「…………」
声が届いてないはずはないんだけど、黙々と素振りを続ける。
「お兄ちゃん~?」
「…………」
「後で怒られても知らないよ?」
「…………」
僕に教えるために練習時間が減ってしまったせいなのかも知れない。
そう考えると僕という存在が兄にとって邪魔ではないのかと不安に駆られる。
家に入るとお父さんが笑顔で出迎えてくれる。
「ん? クレイはどうしたんだ?」
「えっと……まだ素振りを続けていて…………」
「…………ユウマが気にすることはない!」
そう言いながら大きな手で僕の頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。少し強くて思わず目を瞑るけど、お父さんの大きな手からは優しさが伝わってくる。
「ユウマはお母さんの手伝いをしてあげて。お兄ちゃんは父さんに任せてくれ!」
「分かった!」
お父さんが家から出たのを確認して、テーブルに向かうと既に準備が終わっていてお母さんが座って優しい笑みを浮かべて待っていてくれた。
テーブルに座ってお父さんとお兄ちゃんを待つ。
ただし、ただ待っているだけではない。こういう時のためのスキルが存在する。
その名も――――地獄耳!
というのもスキルの名前は分からないけど、遠くの音を聞けるスキルを身に着けている。
恐らくお父さんかお母さんが持っていると思われるこのスキルは、村中の音を全て拾えるくらいに耳が良くなるスキルだ。
【クレイ。まだ素振りを続けていたのか】
【父さん…………】
【ユウマが気になるのか?】
【っ!?】
えっ!? お兄ちゃんが気にしてたのって……僕!?
【クレイ。ユウマは凄いな~】
【…………はい……】
【一発でクレイが練習していた真空斬りを真似ていたのには驚いた。でもな。逆にこういう考えもある】
【……?】
【ユウマに素振りを教えたのはクレイだ。確かにユウマにはとんでもない素質があるかも知れない。でもユウマ一人では絶対に成し遂げられなかっただろう。クレイの言葉や行動が弟であるユウマにとっては誰よりも受け入れやすかったのかも知れない】
【受け入れやすかった……?】
【ああ。その絆は親よりも深いかも知れない。ユウマはクレイの言葉だからこそ信じて、何一つ疑う事なくクレイの全てを真似た。だからできたんだと思う。もし嘘だと思うなら試してみるかい?】
【試してみる?】
【ああ。いいことを教えてあげよう】
何となくこれ以上盗み聞きはいけないと思ったので、スキルを切る。
「二人とも遅いわね~」
「お兄ちゃん凄く頑張ってるから~」
「そうね。クレイもユウマも頑張ってるものね。ユウマ? ユウマはどうして剣術を学びたいの?」
ふと、お母さんが質問を投げかけてくる。
剣術を学びたい理由か…………暇つぶしも理由の一つではあるけど、今の僕にとって剣術は娯楽でもあり、達成感を味わう事ができる貴重な目標でもある。
それに――――
「お兄ちゃんの剣。凄く綺麗だった! 僕もあんな風になりたいんだ!」
僕の前で初めて兄が振り下ろした時の事は今でも目に焼き付いている。思い出すだけで心臓が跳ね上がる程にワクワクする。
だからそれは嘘でも何でもなく、これまでもこれからも僕にとって大きな目標だ――――――兄のようになりたいという。
「ふふふ。ユウマならきっとクレイみたいに立派な剣士になれると思うわよ」
「うん! なる! 毎日頑張る!」
「ふふっ。あら、練習お疲れ様~クレイ」
「お兄ちゃん! スープ冷めちゃうよ~」
お父さんと一緒に入って来た兄は少しだけ清々しい表情を浮かべていた。
そして、今日も美味しい昼食を食べて、少しだけ昼寝して、また素振りの練習を行った。