四歳の日課を繰り返して一年が経過した。
そして、遂に五歳となった僕は――――――ようやく剣術を学べるようになった!
村の子供は僕とお兄ちゃんのたった二人のみで、剣術はお父さんから教わっている。
四歳の時、僕も学びたいと言ったら一年後と言われて、ようやく五歳となった。
実をいうと、転生して五年。毎日が退屈な日々でもある。
もちろん、のどかな日々を送れるのはありがたい事だし、お母さんはいつも大袈裟に外には怖い化け物が沢山いるから怖い世界なんだよと脅して来る。
それは冗談だと思うけど、村人達の動きの速さを見ると、あながち嘘でもないかも知れないと思う部分もある。
そんな事はとにかくおいておくとして、今の僕には娯楽が一切存在しない。
異世界ならではのスキルを獲得するとかもなければ、剣術や魔法を鍛錬する事もなく、ただただ毎日ゆったりと過ごすだけ。
平和が一番とは言うけど、転生する前の前世ではブラック企業に勤めていたから少し覚悟を決めていて、異世界でもきっと大変な生活が続いてくとばかり思っていた。
なのに!
何一つ危険な事はないし、毎日美味しい食事は食べられるし、両親と兄や村人達は優しいし、今までブラック企業で苦労していた分の休暇は十分に満喫できた。
なので、そろそろ僕も何かしら頑張りたいと思えるようになった。
異世界なら剣術や魔法を使えるようになりたい。
というのも、お母さんのスキルを獲得しているので、お母さんと同じ魔法が全部使えるはずだ。
お母さんはいくつもの属性の魔法が使えるようで、中でも珍しい属性と言われている光属性魔法が使えて、光属性魔法の中でも二分するのは、攻撃魔法と回復魔法だけれど、こと回復魔法では村人達の中でも断トツに強いとの事だ。
よく怪我人が出るとお母さんが駆けつけたりする。
ただ、僕は怪我人を一度も見た事がなくて、どれくらいの傷を回復魔法で治せるのかは分からない。
まさか自分の体をわざと傷つけて回復魔法を試す訳にもいかないからね。
もし治せなかったら、あのお母さんの事だ。きっと大泣きしてもっと過保護になるに決まっている。
とまぁ魔法は無理でも剣術なら学べるなら一つの目標として頑張れるかも知れない。
「よし、クレイ。ユウマに少し指南してあげなさい」
「はい!」
あれ? お父さんじゃなくてお兄ちゃんなのか?
「ユウマ。これが木剣という練習用剣だぞ」
「分かった! お兄ちゃん」
いつも『お兄ちゃん』と呼ぶとニヤケる兄なのに、今日は真剣な表情を浮かべている。
きっと剣術を学んでいる時の父と兄は真剣そのものなのだろうと思う。
「ここをこうして持つと持ちやすいんだけど、体の重心によって持ち方が変わってくるんだ。まずは両手の力を出来る限り抜いて強く握ってごらん」
力を抜いて強く握る……?
ちょっと何を言っているか分からないけど、言われた通り木剣を両手で握る。
右手が下に来て、左手が上で、両手を上下でくっつけて握る。
「ユウマは左手が上なんだね。ふむふむ。じゃあ、右足を少し前に出して両足で地面に体重を下す感じにしてみて」
「あい!」
言われた通り、正面を向いて右足を少し前に出して体重を下に下げる。
「立ちにくいとかある?」
「う~ん。左に倒れちゃう?」
「じゃあ、今度は足を逆にしてみて」
「あい!」
右足が前だと、どうしてか倒れそうになった。
今度は左足を前に出して、体重を地面に向ける。
うん。さっきよりはずっと立ちやすいかも。
「こっちがいい!」
「そっか。左手、左足は珍しいね。よし、ユウマ? 左手と左足は覚えておいて。君の剣術の利き手と利き足だからね」
「あいっ!」
剣術の利き手、利き足というのがあるのか。
前世では部活はしていたけど、剣道部とかではないので剣術に触れるチャンスは全くなかったから知らなかった。
もしかしたら異世界ならではなのかも知れないけど。
「今度は振り下ろしを試してみるよ。両足を地面に向けるのは変えずに、ゆっくりと両手を上に上げるんだけど、木剣をまっすぐにするイメージで上げてね」
「あいっ!」
目の前で兄が試しに見せてくれる。
一言で言うなら――――――美しい。
まだ僕には良く分からない。でも兄は何度も何度も素振りを繰り返してきたと思う。
兄のやり方を真似てみる。
その時、お母さんが持っていたスキルが発動する。
僕自身を上から覗く感覚。
自分の体と両手、剣がくっきりと見える。
兄と同じくゆっくりと綺麗に頭の上に木剣を上げて、足に込めた力で重力に任せて木剣を振り下ろす。
風を斬る音が、木剣が重力に乗って重みのある音が、周囲に響いていく。
たった一回の素振りなのに、その気持ちよさに心臓がバクバクと跳ね上がる。
木剣を振り下ろした時、体重がぐっと前に移動したのを感じた。
これは兄の美しい素振りとは違う。
もう一回だ。
木剣を振り上げて、今度はつま先ではなくかかとに重心を集中させる。
下半身は動かさずに重心を維持しながら両腕は楽に木剣を振り下ろす。
さっきと同じ音が響いて、でも今度は前に傾かない。
つまり、兄と同じくらい美しいと思える形で振り下ろせた。
「お兄ちゃん~! どう!?」
「へ!? す、すご……い…………」
「えへへ~!」
異世界に生まれて初めて心の奥から溢れる達成感に嬉しさが爆発した。
そして、遂に五歳となった僕は――――――ようやく剣術を学べるようになった!
村の子供は僕とお兄ちゃんのたった二人のみで、剣術はお父さんから教わっている。
四歳の時、僕も学びたいと言ったら一年後と言われて、ようやく五歳となった。
実をいうと、転生して五年。毎日が退屈な日々でもある。
もちろん、のどかな日々を送れるのはありがたい事だし、お母さんはいつも大袈裟に外には怖い化け物が沢山いるから怖い世界なんだよと脅して来る。
それは冗談だと思うけど、村人達の動きの速さを見ると、あながち嘘でもないかも知れないと思う部分もある。
そんな事はとにかくおいておくとして、今の僕には娯楽が一切存在しない。
異世界ならではのスキルを獲得するとかもなければ、剣術や魔法を鍛錬する事もなく、ただただ毎日ゆったりと過ごすだけ。
平和が一番とは言うけど、転生する前の前世ではブラック企業に勤めていたから少し覚悟を決めていて、異世界でもきっと大変な生活が続いてくとばかり思っていた。
なのに!
何一つ危険な事はないし、毎日美味しい食事は食べられるし、両親と兄や村人達は優しいし、今までブラック企業で苦労していた分の休暇は十分に満喫できた。
なので、そろそろ僕も何かしら頑張りたいと思えるようになった。
異世界なら剣術や魔法を使えるようになりたい。
というのも、お母さんのスキルを獲得しているので、お母さんと同じ魔法が全部使えるはずだ。
お母さんはいくつもの属性の魔法が使えるようで、中でも珍しい属性と言われている光属性魔法が使えて、光属性魔法の中でも二分するのは、攻撃魔法と回復魔法だけれど、こと回復魔法では村人達の中でも断トツに強いとの事だ。
よく怪我人が出るとお母さんが駆けつけたりする。
ただ、僕は怪我人を一度も見た事がなくて、どれくらいの傷を回復魔法で治せるのかは分からない。
まさか自分の体をわざと傷つけて回復魔法を試す訳にもいかないからね。
もし治せなかったら、あのお母さんの事だ。きっと大泣きしてもっと過保護になるに決まっている。
とまぁ魔法は無理でも剣術なら学べるなら一つの目標として頑張れるかも知れない。
「よし、クレイ。ユウマに少し指南してあげなさい」
「はい!」
あれ? お父さんじゃなくてお兄ちゃんなのか?
「ユウマ。これが木剣という練習用剣だぞ」
「分かった! お兄ちゃん」
いつも『お兄ちゃん』と呼ぶとニヤケる兄なのに、今日は真剣な表情を浮かべている。
きっと剣術を学んでいる時の父と兄は真剣そのものなのだろうと思う。
「ここをこうして持つと持ちやすいんだけど、体の重心によって持ち方が変わってくるんだ。まずは両手の力を出来る限り抜いて強く握ってごらん」
力を抜いて強く握る……?
ちょっと何を言っているか分からないけど、言われた通り木剣を両手で握る。
右手が下に来て、左手が上で、両手を上下でくっつけて握る。
「ユウマは左手が上なんだね。ふむふむ。じゃあ、右足を少し前に出して両足で地面に体重を下す感じにしてみて」
「あい!」
言われた通り、正面を向いて右足を少し前に出して体重を下に下げる。
「立ちにくいとかある?」
「う~ん。左に倒れちゃう?」
「じゃあ、今度は足を逆にしてみて」
「あい!」
右足が前だと、どうしてか倒れそうになった。
今度は左足を前に出して、体重を地面に向ける。
うん。さっきよりはずっと立ちやすいかも。
「こっちがいい!」
「そっか。左手、左足は珍しいね。よし、ユウマ? 左手と左足は覚えておいて。君の剣術の利き手と利き足だからね」
「あいっ!」
剣術の利き手、利き足というのがあるのか。
前世では部活はしていたけど、剣道部とかではないので剣術に触れるチャンスは全くなかったから知らなかった。
もしかしたら異世界ならではなのかも知れないけど。
「今度は振り下ろしを試してみるよ。両足を地面に向けるのは変えずに、ゆっくりと両手を上に上げるんだけど、木剣をまっすぐにするイメージで上げてね」
「あいっ!」
目の前で兄が試しに見せてくれる。
一言で言うなら――――――美しい。
まだ僕には良く分からない。でも兄は何度も何度も素振りを繰り返してきたと思う。
兄のやり方を真似てみる。
その時、お母さんが持っていたスキルが発動する。
僕自身を上から覗く感覚。
自分の体と両手、剣がくっきりと見える。
兄と同じくゆっくりと綺麗に頭の上に木剣を上げて、足に込めた力で重力に任せて木剣を振り下ろす。
風を斬る音が、木剣が重力に乗って重みのある音が、周囲に響いていく。
たった一回の素振りなのに、その気持ちよさに心臓がバクバクと跳ね上がる。
木剣を振り下ろした時、体重がぐっと前に移動したのを感じた。
これは兄の美しい素振りとは違う。
もう一回だ。
木剣を振り上げて、今度はつま先ではなくかかとに重心を集中させる。
下半身は動かさずに重心を維持しながら両腕は楽に木剣を振り下ろす。
さっきと同じ音が響いて、でも今度は前に傾かない。
つまり、兄と同じくらい美しいと思える形で振り下ろせた。
「お兄ちゃん~! どう!?」
「へ!? す、すご……い…………」
「えへへ~!」
異世界に生まれて初めて心の奥から溢れる達成感に嬉しさが爆発した。