「私は棕(そう)子豫(しよ)です」
私が名乗った瞬間、清蓉(せいよう)の目がきらっと光った。
「棕将軍家のお嬢様でしたか」
「あら、私のことをご存じ?」
「もちろんです。わたしは都に来て間もないですが、そんなわたしでも棕家の予言の話は知っています」
「あなたは壅(よう)からいらしたそうね?」
「さようでございます。大地の女神様に導かれ天子様の元へとまいりました」
天子様の元だとか含みのある言い方だ、絶対にこっちから突っ込んでやるものか。
私が黙っていると、清蓉は姿勢を戻してまた口を開いた。
「お嬢様も予言をお持ちだそうで」
もってなんだ。突っ込まないけど。
「私じゃないわ、老巫から予言を得たのは父上よ」
「さようでございますか。わたしはこの耳で女神さまのお告げを聞きました」
マウントを取ったつもりなのか清蓉の頬に余裕の笑みが戻った。
「そうなの。それで何をしに煒に来たの? どうせ壅の間者なのでしょ、あなた」
ずばっと言い切ると清蓉は袖で口を覆って絶句した。ふん、馬鹿め。バレバレだというのに。
今現在も国境での壅軍の示威行動は続いている。以前の壅ならこんなまだるっこしい真似はせず、一気に進軍しているだろうに、十年前の敗戦から学んだようで、何やら水面下で隠密作戦を進めているのは明らかだ。
そんな時に亡国のヒロインが壅からやって来た。全力で怪しいというものだ。
「あなたは鐶(かん)王家の末裔だそうね」
今、天子の座は三代続けて煒王家が独占しているが、それ以前は鐶の国王が天子の位に就いていたのだ。煒は鐶を滅ぼし天子の象徴の九鼎と秘術を手に入れた。鐶王家の生き残りだというのなら煒王家は仇敵だ。
もちろん私だって状況証拠で決めつけたりしない。決め手は私の直感だ! むしろ亡国のヒロインなんて設定の方が眉唾なんじゃと思ってる。それくらい、私の直感がこの女は怪しいと叫んでいる。
「確かに、私は鐶の出身です。ですがだからといって煒王家の方に恨みなど抱いていません。いえ、恨みは捨てました。今のわたしはひたすら、病や怪我で苦しんでいる人たちを助けてあげたい、どこの国の人だろうとそれは関係ない、その一心でここまでまいりました」
「あー、はいはい。その、助けてあげたいっていうのね。本当に?」
「……え?」
「人々のためにっていうけど、結局自分のためでしょ、それ」
うっとうしいくらいに気持ちを入れて切々と語っていた内容を思いきり否定してやると、清蓉はまた黙った。
「仙女サマ、仙女サマって、おだてられるのが好きなんでしょう。そうやって自分が気持ちよくなりたいから助けてやってるんでしょう? そういうの透けて見えるのよ、あなたの態度からは。言ったでしょう、わたしには分かるの。あなた芝居が下手だし」
それまでの慎ましやかな表情が一転、清蓉の瞳に怒りが沸いた。
お、やりますか? 存分にかかっていらして。
私は期待したものの、清蓉はなぜか表情をやわらげ、ばかりかみるみる目じりを下げるといきなりわっと泣き出した。
「ひどいです! いくら棕家のお嬢様とはいえ、あんまりです!」
は? と目を点にしていると、私の後ろでさっと子宇(しう)が脇に控えた。
「子豫、おまえも来ていたのか。それにしてもなんの騒ぎだ?」
侍衛を連れた毅(き)公子が驚いた表情で私と清蓉を交互に見ていた。
私が名乗った瞬間、清蓉(せいよう)の目がきらっと光った。
「棕将軍家のお嬢様でしたか」
「あら、私のことをご存じ?」
「もちろんです。わたしは都に来て間もないですが、そんなわたしでも棕家の予言の話は知っています」
「あなたは壅(よう)からいらしたそうね?」
「さようでございます。大地の女神様に導かれ天子様の元へとまいりました」
天子様の元だとか含みのある言い方だ、絶対にこっちから突っ込んでやるものか。
私が黙っていると、清蓉は姿勢を戻してまた口を開いた。
「お嬢様も予言をお持ちだそうで」
もってなんだ。突っ込まないけど。
「私じゃないわ、老巫から予言を得たのは父上よ」
「さようでございますか。わたしはこの耳で女神さまのお告げを聞きました」
マウントを取ったつもりなのか清蓉の頬に余裕の笑みが戻った。
「そうなの。それで何をしに煒に来たの? どうせ壅の間者なのでしょ、あなた」
ずばっと言い切ると清蓉は袖で口を覆って絶句した。ふん、馬鹿め。バレバレだというのに。
今現在も国境での壅軍の示威行動は続いている。以前の壅ならこんなまだるっこしい真似はせず、一気に進軍しているだろうに、十年前の敗戦から学んだようで、何やら水面下で隠密作戦を進めているのは明らかだ。
そんな時に亡国のヒロインが壅からやって来た。全力で怪しいというものだ。
「あなたは鐶(かん)王家の末裔だそうね」
今、天子の座は三代続けて煒王家が独占しているが、それ以前は鐶の国王が天子の位に就いていたのだ。煒は鐶を滅ぼし天子の象徴の九鼎と秘術を手に入れた。鐶王家の生き残りだというのなら煒王家は仇敵だ。
もちろん私だって状況証拠で決めつけたりしない。決め手は私の直感だ! むしろ亡国のヒロインなんて設定の方が眉唾なんじゃと思ってる。それくらい、私の直感がこの女は怪しいと叫んでいる。
「確かに、私は鐶の出身です。ですがだからといって煒王家の方に恨みなど抱いていません。いえ、恨みは捨てました。今のわたしはひたすら、病や怪我で苦しんでいる人たちを助けてあげたい、どこの国の人だろうとそれは関係ない、その一心でここまでまいりました」
「あー、はいはい。その、助けてあげたいっていうのね。本当に?」
「……え?」
「人々のためにっていうけど、結局自分のためでしょ、それ」
うっとうしいくらいに気持ちを入れて切々と語っていた内容を思いきり否定してやると、清蓉はまた黙った。
「仙女サマ、仙女サマって、おだてられるのが好きなんでしょう。そうやって自分が気持ちよくなりたいから助けてやってるんでしょう? そういうの透けて見えるのよ、あなたの態度からは。言ったでしょう、わたしには分かるの。あなた芝居が下手だし」
それまでの慎ましやかな表情が一転、清蓉の瞳に怒りが沸いた。
お、やりますか? 存分にかかっていらして。
私は期待したものの、清蓉はなぜか表情をやわらげ、ばかりかみるみる目じりを下げるといきなりわっと泣き出した。
「ひどいです! いくら棕家のお嬢様とはいえ、あんまりです!」
は? と目を点にしていると、私の後ろでさっと子宇(しう)が脇に控えた。
「子豫、おまえも来ていたのか。それにしてもなんの騒ぎだ?」
侍衛を連れた毅(き)公子が驚いた表情で私と清蓉を交互に見ていた。