――女子の栄達を願うならば今こそ世に出るべし。

 王の妃になって国母になる、というだけなら、他国の王に嫁ぐという可能性だってあるのだから、私たち三人が三人とも〈栄達〉を成し遂げる可能性はある。
 でも天下にただひとりの天子の母となればそうはいかない。そのうえ、私たちが夫となる〈天子を選ぶ〉というおかしな筋道ができてしまった今となっては。

 ――わたしたちが選んだ三人が三人とも天子になれるわけもないでしょう?

 芝嫣(しえん)姉さまの指摘はもっともすぎて、だから赬耿(ていこう)だって黙ったのだ。最悪、三人がそれぞれ立てた夫に天子の座を争わせる、という可能性だって見えてしまう。もしくは、芝嫣姉さまが赬耿に誘いかけたように三人で寵を争うか。
 えええ。そんなドロドロした物語なの? これ。いざとなったら私は争うけども、でも。

 私たち姉妹がずっと曖昧なままにしてきた議題を突き出した当の芝嫣姉さまは気のないようすで空を見つめている。淑華(しゅくか)姉上は、私の髪を梳いていた手を止めないまま押し黙っている。

 やがて淑華姉上がかすれた声を絞り出した。
「芝嫣はどう思うの? 王后(おうごう)になりたい?」
「もちろんよ。王后の装束はきっとわたしに似合うわ」
「そうね……」
「でもわたしはわきまえないお馬鹿さんじゃないから、嫡子の姉上にちゃんと譲るわ」
 淑華姉上は手を止めて芝嫣姉さまの方に向き直ったようだ。それで私もやっと体を動かすことができた。芝嫣姉さまは相変わらず顔を上向けているけれど、くちびるがしっかり尖っている。

 嫡出であるか庶出であるかも、この世界では大きな違いだ。私たちの父上はそんなことで扱いに差をつけたりしないが、世間では正妻の子である淑華姉上だけを棕(そう)家の娘とみなす極端な見方だってあるだろう。

「子豫(しよ)はどうなの?」
 芝嫣姉さまを窺いながら淑華姉上が私の方へも視線を流す。
「淑華姉上が王后になればいいと思います」
 即答すると、芝嫣姉さまに思いきり睨まれた。
「あんたは日和見なんだからっ」
「八つ当たりしないでください」

「芝嫣」
 優しく名前を呼んで、淑華姉さまは今度は芝嫣姉さまの髪を梳かし始めた。ぷりぷりしながらも姉さまはおとなしくなる。
「ふたりの気持ちはわかったわ。わたくしは必ず王后になってみせる。でも覚えておいて」
 手つきは穏やかなまま、ぴんと張り詰めた声で淑華姉上が言った。
「栄達はわたくしたち三人のもの。わたくしたち三人で棕(そう)家の栄達を成し遂げるのよ」