「この場での、あなたにとっての最善の決着ってなあに? わたしたち三人が……三人よね? 予言がいうところの〈女子〉は特定されてないけど、三人のうちの誰かなのだから、三人とも確保しておきたいのよね?」
それまでぼやかしたままで議論していた点を芝嫣(しえん)姉さまはまず確認する。
「そうなります」
「ええと。わたしたちの夫となる人が天子になるのだから、天子になりたいから、わたしたちと結婚したい」
芝嫣姉さまは軽く握った左右の手をくっつけて話す。
「煌(こう)の人の希望はそうよね?」
「おっしゃるとおりです」
「でも煌王様はおじいさんでしょう? 天子様よりはお若いけど、わたしから見たらおじいさんだわ。父上よりも歳が上の方に嫁ぐのはちょっと」
「公子の中から選んでいただいても良いのですよ。みな眉目秀麗で優秀な方ばかりです」
どうでもいいけど、赬耿(ていこう)は姉さま相手には最初の丁寧な物腰になっている。どうでもいいけど。
「あら。選べるの? ってことは、相手は煌王家の方なら誰でもいいということ?」
「煌王か王太子に嫁いでいただくのがいちばんですが、そこは無理は申しません」
「煌に王と天子とが別々に在位することになってしまわない?」
「過去にはそういう例もありますゆえ」
「そうなんだ。わたしたち三人がそれぞれお相手を選んでいいということね?」
「さようです」
「ん~、それだとやっぱりおかしなことにならないかしら? わたしたちが選んだ三人が三人とも天子になれるわけもないでしょう? それだと無用な争いを招くことになってしまうわ」
「…………」
至極端的な一問一答を重ね、芝嫣姉さまは赬耿を黙らせてしまった。さすがだ。相手の要望に応じる素振りを見せつつ、のらりくらりとかわしていく高等テクニックだ。
これを天然でやっているのか計算なのか、わからないところが姉さまのすごいところだ。
「よくわからないわ。やっぱり父上の意見を聞かないと。ねえ、子豫(しよ)?」
「そのとおりですわ、芝嫣姉さま」
ふたり寄り添って、じりじりと後退を始めた私たちの前で、赬耿がぶるぶる肩を震わせ、叫んだ。
「ふざけるな! あんな無能になぜ仕えようとする! 諸侯のいただきに存在する天子があのような能無しでいいのか!? 譲位するならするで、また煒(い)王家の能無しに居座られるのは我慢がならん。俺たちはいい加減腹に据えかねてるんだっ」
両腕を振りながらがなりたて、清々しくぶちまけた赬耿は一瞬口をつぐみ、薄闇の中でもそうとわかるギラギラした目で私たちを見た。
「棕(そう)家がまたしょうもない天子を選ぶというなら、ここで殺してやる」
物騒な男だ。こちらとしても危険人物となりそうな輩は早めに始末しておくに限る。父上が来てくだされば……。
思案しながら芝嫣姉さまの柔らかな腕に手をかけたとき、また姉さまがずいっと進み出て口を開いた。
「あなたにとって最悪なのは、わたしたちが煒(い)王家に嫁いで、その夫が天子になることなのね?」
平然とした姉さまの素振りに昂ぶりが冷やされたらしく、赬耿は肩で息をつきながら抑えた声で頷いた。
「そうだ」
「それなら、あなたがわたしたち三人を娶ってしまえばいいんじゃない?」
突拍子もない姉さまの意見に、赬耿ばかりか私も絶句してしまった。
それまでぼやかしたままで議論していた点を芝嫣(しえん)姉さまはまず確認する。
「そうなります」
「ええと。わたしたちの夫となる人が天子になるのだから、天子になりたいから、わたしたちと結婚したい」
芝嫣姉さまは軽く握った左右の手をくっつけて話す。
「煌(こう)の人の希望はそうよね?」
「おっしゃるとおりです」
「でも煌王様はおじいさんでしょう? 天子様よりはお若いけど、わたしから見たらおじいさんだわ。父上よりも歳が上の方に嫁ぐのはちょっと」
「公子の中から選んでいただいても良いのですよ。みな眉目秀麗で優秀な方ばかりです」
どうでもいいけど、赬耿(ていこう)は姉さま相手には最初の丁寧な物腰になっている。どうでもいいけど。
「あら。選べるの? ってことは、相手は煌王家の方なら誰でもいいということ?」
「煌王か王太子に嫁いでいただくのがいちばんですが、そこは無理は申しません」
「煌に王と天子とが別々に在位することになってしまわない?」
「過去にはそういう例もありますゆえ」
「そうなんだ。わたしたち三人がそれぞれお相手を選んでいいということね?」
「さようです」
「ん~、それだとやっぱりおかしなことにならないかしら? わたしたちが選んだ三人が三人とも天子になれるわけもないでしょう? それだと無用な争いを招くことになってしまうわ」
「…………」
至極端的な一問一答を重ね、芝嫣姉さまは赬耿を黙らせてしまった。さすがだ。相手の要望に応じる素振りを見せつつ、のらりくらりとかわしていく高等テクニックだ。
これを天然でやっているのか計算なのか、わからないところが姉さまのすごいところだ。
「よくわからないわ。やっぱり父上の意見を聞かないと。ねえ、子豫(しよ)?」
「そのとおりですわ、芝嫣姉さま」
ふたり寄り添って、じりじりと後退を始めた私たちの前で、赬耿がぶるぶる肩を震わせ、叫んだ。
「ふざけるな! あんな無能になぜ仕えようとする! 諸侯のいただきに存在する天子があのような能無しでいいのか!? 譲位するならするで、また煒(い)王家の能無しに居座られるのは我慢がならん。俺たちはいい加減腹に据えかねてるんだっ」
両腕を振りながらがなりたて、清々しくぶちまけた赬耿は一瞬口をつぐみ、薄闇の中でもそうとわかるギラギラした目で私たちを見た。
「棕(そう)家がまたしょうもない天子を選ぶというなら、ここで殺してやる」
物騒な男だ。こちらとしても危険人物となりそうな輩は早めに始末しておくに限る。父上が来てくだされば……。
思案しながら芝嫣姉さまの柔らかな腕に手をかけたとき、また姉さまがずいっと進み出て口を開いた。
「あなたにとって最悪なのは、わたしたちが煒(い)王家に嫁いで、その夫が天子になることなのね?」
平然とした姉さまの素振りに昂ぶりが冷やされたらしく、赬耿は肩で息をつきながら抑えた声で頷いた。
「そうだ」
「それなら、あなたがわたしたち三人を娶ってしまえばいいんじゃない?」
突拍子もない姉さまの意見に、赬耿ばかりか私も絶句してしまった。