「棕(そう)家の娘を娶る者が天子となる、そういう予言だろう」
 違うでしょ。あれは〈あんたの娘が将来国母になれるかもしれないから、いま天子を助けておいた方がいいかもよ〉って程度の内容だよね。

 なのになんで私たちがキングメーカーみたい扱いになっているのか。背びれ尾ひれどころではなく解釈としておかしなことになっている。
 と私は絶句してしまう。しかし赬耿(ていこう)は大真面目な様子だ。
 いやいやいや、ちょっと待ってくださる?

 私たちは、例えば、神殿の巫女とか、神のお告げを得た聖女とか、星を見て未来を予想するとか、そいう神秘的な出自の存在ではない。それってむしろ正ヒロインの役目だし。
 私たちは武骨な軍人家系の娘で、打算と計算と損得勘定が得意で、感情論を鼻で笑って合理性を尊重する、というのが姉妹で共通の性質だ。

 そんな私たちのどこに神秘性があるというのか。そんな私たちに関する予言が、どうしてそんな解釈で流布したのか。そして、そんな私たちの姿を見て、どうして予言の信憑性を疑わないのか。
 一見して切れ者っぽい目の前の男も、予言に対して猜疑心がないから、私たちを操作しようとしている。こんなことのために軍事行動を起こした煌(こう)王しかりだ。

 そう呆れる一方。この世界はそうなのだ、と十三年間を生きてきた子豫(しよ)の肌感覚では納得できてもいる。

 諸侯のトップである天子には、レガリアの九鼎(きゅうてい)の他にも様々な秘術が伝えられるという。亀卜(きぼく)や遁甲式(とんこうしき)など未来予想をする占術だ。
 天子の行動の多くは占術によって決められている、という。そんな世界なのだから、天子と同じ血筋の煌王家が特に予言の噂を気にするのは真っ当なことなのだ。

 しばしの黙考の後、私はようよう口を開いた。
「いろいろ疑問な点はありますが、状況はわかりました。それで、私たちの身柄をおさえてどうなさろうと?」
「話は簡単だ。そなたら三人が煌に嫁げばそれでよい」
 あー、そーなりますよね、カンタンカンタン。

「嫌だと言ったら?」
「嫌とは言わせない」
「我が父上が承諾するとでも?」
「そのための人質だ」
「私たちは人質であり戦利品そのものであると? それは素敵」
「無駄だ。会話で気を反らせて隙を作ろうとしてるだろう」

「……じきに父が駆けつけてきますわ。勇猛果敢な棕将軍が人質の存在にひるむとでも? 交渉の間もなくあなたなんて真っ二つですわ」
「だから今すぐ、うんと言ってくれ」
「嫌です」
「力ずくで国へ連れて行ってもいいのだぞ」
「嫌です」
「ならば殺すしかない」
 すうっと声音を落として赬耿は脅しをかけてきた。まったく殿方というのは、結局最後はこれだ。

「ねえ、思ったのだけど」
 そのときすっくと、それまで終始無言だった芝嫣(しえん)姉さまが突然立ち上がった。