人見知りだからと引きこもって社交界を離れ、少なからずそれが原因で婚約者に振られ、だがどういうわけか他の殿方たちにモテまくるようになってしまって、このままでも自分イケてると勘違いするのは脳みそお花畑なので仕方ない。でも、周りを見てみれば気づけたはずだ。イケてなんていないことに。

「わ、わたくしはお妃になりたくてアンリ様を好きになったんじゃないです。だからお妃になれなくたっていいんです。お妃にはイザベル様がふさわし……」
「いい加減にその馬鹿な口を閉じなさいっ」
 腰に手をあてて怒鳴るわたくしの隣で、ギーズ公爵令嬢は額を押さえながら椅子にへたりこんでしまった。はあ、気持ちはわかりますわ。こんなオンナに自分の婚約者が夢中になっているだなんて哀しくもなりますわ。
 ギーズ公爵令嬢のように完璧な女性に気後れしてしまい、気を張らずに接することのできる癒し系女子に惹かれてしまう、自分に自信のない男子あるあるなのでしょうけれど。

 アンリのこじらせも、王位をめぐるライバルであるシャルル殿下と、王としての資質や人格まで長い間比べられてきたことが大きな原因だろう。年長者と比較されこき下ろされて気の毒ではあるが、事実アンリの資質はシャルル殿下よりも大きく劣るのだから仕方ない。
 本人も周りもそれを理解しながらアンリは王位に就かねばならない。そりゃあかわいそうかもしれないけれど、わたくしという安全パイをおさえたうえでシルヴィーもって調子がよすぎやありませんこと? 似た者カップルここに極まる、このふたりはどっちもどっちなのですわ。

 言いたいことはまだ山のようにあるけれど、ぶちかますのは今じゃない。わたくしはそこそこのガス抜きで我慢して、改めてシルヴィーをしごき始めるのだった。




 シルヴィーにとっての地獄の日々はあっという間に流れ、いよいよ王室主催大夜会in西の離宮の日がやってきた。
 この日を最後と決め、わたくしもがむしゃらに働いた。目標と期日を掲げれば人はおのずと頑張れるものね。その向こうにカタストロフが待っているとなればなおさらよ。わたくしはこのためだけに生きているといっても過言ではないのだもの。もうすぐすべてが終わる。

 わたくしがまず行ったのはシャルル殿下とボリュー伯爵とを引き合わせることだった。凡庸で人畜無害なボリュー伯爵は、だからこそ支持者が多かったりもする。ボリュー伯爵家が外戚になることはさして問題ないのでは、シャルル殿下が王弟派を口八丁で操作すれば、あらゆる面で強硬派のわがニーム公爵家が後ろ盾になるよりもアンリの治世は安定するのではないか、といったことをシャルル殿下とふたりで延々とシミュレートした。

「イザベルと話すのは楽しいなあ」
「殿下もわたくしも悪だくみが好きだからですわ」
「ふふ、もしアンリがしくじったなら、わたしとあなたとでこの国を乗っ取ってしまおうか?」
 それはとても魅力的な提案だったけれど、今生のわたくしの目標はもう定まっている。そのために、シルヴィーをもっともっと追い詰めてやらなければ。それこそが悪役令嬢(わたくし)の真骨頂なのだから。

 さあ、いよいよクライマックス。本当の修羅場へのファンファーレを鳴らしましょうか。