わたくし気づいてしまいましたの。シルヴィーとヴェロニクは姿が似ていることに。顔のつくりはまったく違うけれど、背格好と髪色が似ているから後姿がそっくり。
  今夜のように同じ仮面をつけ、布地の色味と刺繍の色が少し異なるとはいえ、同じようなデザインで同じ赤系統のドレスを着ていればまるで双子みたい。
 纏う雰囲気は真逆だし、親しい間柄なら間違えるなんてことはないだろうけど。けれど、ねえ、ふふふふふ。

「とてもステキですわ。ヴェロニク様」
 うきうきした気持ちのまま大絶賛する。現に今夜のヴェロニクの美人オーラは際立っていたから。
「イザベル様のお見立てが素晴らしいからです」
 うふふふ、ええそう。今夜のふたりのコーディネートはわたくしがプロデュースしましたの。うふふふふふ。

 それぞれに同じ仮面を贈って、このマスケと合わせるならドレスはシンプルに、でも凝った布地で、色は深い赤色なんていいんじゃないかしら、とアドバイスしておいたのだ。
 突然の贈り物にヴェロニクは戸惑いながらも嬉しそうに、シルヴィーはびくびくしながら警戒心丸出しでいたけれどわたくしの提案をちゃんと聞いていて受け入れたのね。うふふ、素直な子ってわたくしも好きよ。

「あちらにアンリ殿下がいらっしゃるわ。一緒にあいさつにまいりましょう」
 ヴェロニクは仮面の奥で迷うように瞳をしばたかせた。よその婚約者を奪った悪女だと認識されていることを前提に慎ましく立ち回っている彼女としては、近い将来ヴィルヌーブ子爵が仕えることになるだろう主人の前に出ていくのは勇気が必要なのかもね。アンリはもちろん子爵の元婚約者シルヴィーの味方でしょうし。
 でもわたくしは断言する。それはそれ、これはこれ。そんなことくらいで、殿方は魅力的な女性を嫌ったりしないのよ。うふふふふふ。

「今夜は仮面舞踏会ですもの。殿下に誰かを当ててもらいましょうよ」
 ほっそりした腕に腕を絡めて歩き出すと、ヴェロニクは頷きながら首を傾げた。
「え、ええ。でもあの、イザベル様は仮面を被らないでいいのですか?」
「いいのよ、わたくし自分が仮装するのは好きじゃないの」

 だって顔を隠す必要性なんて感じない。わたくしはいつだって素顔をさらして行動するのよ。せっかく悪いことをしても犯人はわたくしだって知らしめないと意味がないじゃない。良いことをするときには人知れず、悪いことをするときには堂々と、よ。