良いお天気だったので戸外での活動は心地よかった。初めはしぶしぶではあったけれど、いい気分転換になったかも。
 ギーズ公爵令嬢と並木道を引き返していたとき、派手ないななきと悲鳴が聞こえた。

 あらら、わたくしの勘にビビっときましてよ。これはシルヴィーが騎乗した馬が暴走して「助けて!」ってやつですわ、間違いない。

 思ったそばから、パカランパカランと蹄の音が近づいてきてギーズ公爵令嬢が声を上げた。わたくしはさっと腕を上げて落ち着くように指示した。わたくしたちまで巻き込まれたらたまらない。
 すぐわきをかすめて芦毛の馬が走り去った。その背に伏せた栗色の髪の頭と、ひらひらなびくスカートの裾が見えた。またまた予想通りすぎてつまらない。

「あれは……」
「シルヴィーのようね」
「大丈夫かしら?」
 大丈夫に決まってる。にやりと上がりそうになってしまった唇の端を意志の力でおさえる。
 案の定、木立の隙間から白毛の馬が飛び出してきた。明るい金髪をキラッキラ輝かせたアンリがシルヴィーの馬を追いかけていく。

 うわぁ、王子キター。白馬に乗ってキター。目のやり場に困ってしまうくらい光ってますわね。

 追随するアンリに気が付いたシルヴィーは不用意にからだを起こしてしまったらしく、ぐらりと上半身を揺らした。後ろのめりに倒れたシルヴィーを、馬体を寄せたアンリが腕を伸ばして支えた。そのままぐいっと自分の白馬の上に押し上げて胸の中に抱きしめた。
 降り注ぐ午後の光の中、前足を上げて棹立ちのようになった馬の背でアンリがまとっていたマントが抱き合うふたりを包み込むようにひるがえった。

 え、なにあのポーズ。あのポーズ必要? なんであんななるの?? というか、どっかの世界でこんな構図の絵画を見た覚えがあるようなないような。
 ドン引きするわたくしだったが、ギーズ公爵令嬢やかけつけてきた方々は息をのんで見惚れていたようだ。純白の白毛の馬は素敵だものな。馬上の人間も美男美女だしな。やっぱり顔か、顔なのか。

 やがてアンリはひとかたまりに集まっていたわたくしたちのところにシルヴィーともどもやってきた。
「お怪我はない?」
「大丈夫ですの? お顔が青いですわ」
 本気で気遣って声をかける令嬢たちにシルヴィーは目を閉じたまま小さく頷いた。そんな彼女を抱えたまま、アンリがキッとわたくしを睨んだ。

 あらあら、なんですの? ガンつけやがって。喧嘩なら買いますわよ? わたくしは扇子を少し開いてほころぶ口元を隠し、そっと目を細めてアンリの鋭い視線を受けとめた。