乗馬用コートの一団はどうしてこう白黒なのか。どうでもいい感想を抱きつつ馬場に顔を見せたわたくしにギーズ公爵令嬢たちが膝を屈めた。指示を求める視線を向けてくる令嬢たちにわたくしはゆっくりと頭を横に振った。
「乗馬は危険がつきものです。なのでよけいなことには気を取られずに楽しみましょうね」
 シルヴィーいじめは今日はお休みだ。

 めいめいに乗馬に向かう方々を見送るわたくしの傍らにギーズ公爵令嬢が残った。
「わたくしも、馬に乗るのは好きではなくて」
「も」? わたくしは人が騎乗しているようすを見ているのが苦手なのであって、馬に乗ること自体は嫌いではない。どちらにしてもギーズ公爵令嬢に(というか今生では誰にも)乗馬が苦手な話をした覚えはないのだけど。
 首を傾げてみせるわたくしに、ギーズ公爵令嬢は彼女がよくするようにそっと肩を竦めた。
「見てればわかりますわ」
 さすがの観察力ね。

 しばらくは木陰に座って休んでいたけれど、少し退屈になってきてやっぱり馬に乗ろうかとなった。
 厩舎へと向かう途中で、馬の傍らで立ち話をしているグループを見かけた。シルヴィーとアルベールたちだ。ギーズ公爵令嬢はさっとうつむきがちになってシルク帽のつばで顔を隠した。

「外乗りならみなさんで行ってきてください」
「いや、シルヴィーが行かないのなら我々も」
「君を一人にできないよ。あの方に目をつけられてるだろ」
「あの方」だなんて。ものすごい大物みたい、どなたのことかしら? ふんと鼻で笑って扇子をあおぐわたくしの隣でギーズ公爵令嬢が苦笑いした。

 馬のためだけとは思えない豪奢な厩舎に残っていた子の中から、散策するだけだからと大人しそうな二頭を選んでもらった。
 騎乗すると目線が高くなって景色ががらっと変わる。木立の向こうに、かつての領主の住居だった城の一部が見えた。王妃様はあの塔からこちらを観察しているのかもしれない。

 散策のために整備された並木道を闊歩しながらギーズ公爵令嬢が馬上で口を開いた。
「ボリュー伯爵令嬢は雰囲気が変わりましたわね。以前より打たれ強くなったような。口数も多くなって」
「自信がついたのでしょう」
 何が女の子を淑女たらしめるのか、淑女扱いされることである、とはよくいうけれど。そんな、チヤホヤされたくらいでつく自信なんて、薄っぺらくて笑ってしまうわ。「すごぉい、こんなの初めて」という女子の反応に喜んで舞い上がってのめり込んでしまう殿方とどっちもどっちだ。

 辛辣な感想は胸の中に留めておいたのだけど、ギーズ公爵令嬢は言われなくともわかっている、というふうに深いため息をついた。わたくしも立場は同じなのだけど。