仲良し宣言を違わず、それからシルヴィーと毎日会うようになった。
 夜会で会えばドレスにワインをひっかけてやり、ダンスに乗じてヒールの踵で思い切り脚を蹴飛ばしてあげた。
 茶会で会えばお茶をひっかけ、腰を下ろそうとしたタイミングで椅子を引いて尻もちをつかせてあげた。
 事前の根回しで席を隣にしてもらった晩餐会では、横からスープにたっぷりのコショウをふりかけてさしあげ、デザートのクリームにカラシを添えてあげた。

 シルヴィーはとってもいい反応をしてくれつつもおおげさに騒ぐことはせず、ふるふると涙ぐんではラニー侯爵令嬢やアルベールたち取り巻きの男子に助けられていた。
 反撃してきたなら対応を変えるのだが、いたずらを許容するかのような態度でいるから、こちらも地味ないやがらせをやめられない。
 そのうちわたくしも、子どものいたずらの延長のようないじめがとっても楽しくなってきた。初心忘れるべからずだ。いたずらといじめは紙一重、ほんのいたずら心で相手を傷つけたことを反省するのなら善人の道を歩めばよい。わたくしには当てはまらないけれど。

 さほど労力のかからない地味ないじめは、される方にしてみればそれなりにダメージが溜まっていくようで。そのうちシルヴィーは病気だといって招待を断わったり、約束をボイコットするようになった。
 あらあら、お気の毒に。わたくしは毛虫の張り付いた鉢植えのお花を持参してお見舞いに駆けつけましたわよ、もちろん。シルヴィーは感極まって泣き崩れそうになってましたわ。ほほほほほ。

 ボリュー伯爵のお屋敷の馬番を買収し、シルヴィーのスケジュールはばっちり把握していたので、買い物に出かけた先で偶然出会ったふりをして、シルヴィーが購入しようとしていたレースや手袋を横取りしたりもした。
 シルヴィーに付き従っていたアルベールが文句を言ったが、ギーズ公爵令嬢へのプレゼントだと返すと黙ってしまった。まったくだらしのないこと。

 シルヴィーの行動と、王宮からの情報とを突き合わせ、わたくしのフィアンセと王室植物園で会っていることは掴んでいた。でもそれで吊るしあげるのはまだ早い。まだまだふたりが抜き差しならない関係になってからでないと。

 そんな頃、王妃様の計らいで王家の狩猟場を利用して乗馬を楽しむ会が催されることになった。第一王子アンリと年の近い貴族の子弟たちを集めてグループ構成などを観察したいという思惑だろうが、わたくしは気が進まなかった。

 乗馬は好きではない。貴族の嗜みとして当然身に着けているし苦手でもないけれど、好きではない。しかし王妃様の鶴の一声で企画された催しを欠席するわけにもいかず、しぶしぶだが出かけざるを得なかった。