「わらわたちの目が節穴だったというのか」
女神さまが低くつぶやかれます。責任をなすりつけあっていたおふた方はぴたりと口を閉ざしました。
眼下では、女神さまの街の陣営の方が混乱しつつありました。将を倒せば総崩れになると思われた敵の兵士たちが、なんの乱れもなく整然と進んでくるのです。その異様さに臆した空気が満ちてしまいます。
「わらわたちの怠慢だというのか。守護する者たちをみすみす駒にされてしまうなど」
「地下の方々は戦乱を好む。戦いを長引かせようというのだろうな」
地下からの霧の息に操られ、人間味を消して威圧的に前進を続けるご自分の国の兵士たちを見やって叔母君もやりきれないごようすです。
「これが、お仕置きというわけか? 父上」
ひとりごちて、女神さまは厳しく戦場を見据えられました。
「落ち着け! 大丈夫だ! 俺たちの優位は揺るがない! 槍をしっかり構えろ! 足を踏ん張れ!」
リュキーノスが翼ある言葉で鼓舞しようとしますが、街の兵たちはすっかり呑まれてしまったようです。
そしてついに、こちらの号令を待たずに敵が突撃を始めました。声も発さず一糸乱れないまま駆け足で迫ってきたのです。普通ではありません。
「腰を落として槍を突き出せ! 腰を落とすんだ!」
リュキーノスが怒号します。
「くそっ」
その有様をご覧になって歯噛みした弟君が、ついに手のひらを振りかざします。
「馬鹿っ。やめんか!」
叔母君が止めに入ります。
「おぬしは先の大戦で兄上に逆らい戦を長引かせてしまったことを忘れたのか! そのせいでこってり罰を食らったろうが!」
「でも黙って見てられないよ! この地上を好きにさせるのですか!?」
「兄上はこの状況を知っておいでなのだろう? けれど何もしない。それなら我らだって何もできんだろうが!」
前方に突き出した槍先が交わります。突き出された槍を街の兵たちは盾で必死に受け止めます。腰が引けた者が尻もちをつきそうになるのを密集した後列の兵が支えます。
突進の際に前のめりに倒れれば、為すすべもなく続いて前進してくる味方の兵に踏みつけられてしまいますが。後ろに倒れる分には助けてもらえるようです。むしろ前倒しに崩れても良いのは敵兵の方です。
それなのに、彼らは崩れません。
「前列は槍の柄の先を地面に固定しろ! 突かなくても奴らの方が突っ込んでくるんだ! しっかり構えろ! 槍を落とすな!」
混乱しつつも兵士たちはリュキーノスの言葉に従います。
女神さまが低くつぶやかれます。責任をなすりつけあっていたおふた方はぴたりと口を閉ざしました。
眼下では、女神さまの街の陣営の方が混乱しつつありました。将を倒せば総崩れになると思われた敵の兵士たちが、なんの乱れもなく整然と進んでくるのです。その異様さに臆した空気が満ちてしまいます。
「わらわたちの怠慢だというのか。守護する者たちをみすみす駒にされてしまうなど」
「地下の方々は戦乱を好む。戦いを長引かせようというのだろうな」
地下からの霧の息に操られ、人間味を消して威圧的に前進を続けるご自分の国の兵士たちを見やって叔母君もやりきれないごようすです。
「これが、お仕置きというわけか? 父上」
ひとりごちて、女神さまは厳しく戦場を見据えられました。
「落ち着け! 大丈夫だ! 俺たちの優位は揺るがない! 槍をしっかり構えろ! 足を踏ん張れ!」
リュキーノスが翼ある言葉で鼓舞しようとしますが、街の兵たちはすっかり呑まれてしまったようです。
そしてついに、こちらの号令を待たずに敵が突撃を始めました。声も発さず一糸乱れないまま駆け足で迫ってきたのです。普通ではありません。
「腰を落として槍を突き出せ! 腰を落とすんだ!」
リュキーノスが怒号します。
「くそっ」
その有様をご覧になって歯噛みした弟君が、ついに手のひらを振りかざします。
「馬鹿っ。やめんか!」
叔母君が止めに入ります。
「おぬしは先の大戦で兄上に逆らい戦を長引かせてしまったことを忘れたのか! そのせいでこってり罰を食らったろうが!」
「でも黙って見てられないよ! この地上を好きにさせるのですか!?」
「兄上はこの状況を知っておいでなのだろう? けれど何もしない。それなら我らだって何もできんだろうが!」
前方に突き出した槍先が交わります。突き出された槍を街の兵たちは盾で必死に受け止めます。腰が引けた者が尻もちをつきそうになるのを密集した後列の兵が支えます。
突進の際に前のめりに倒れれば、為すすべもなく続いて前進してくる味方の兵に踏みつけられてしまいますが。後ろに倒れる分には助けてもらえるようです。むしろ前倒しに崩れても良いのは敵兵の方です。
それなのに、彼らは崩れません。
「前列は槍の柄の先を地面に固定しろ! 突かなくても奴らの方が突っ込んでくるんだ! しっかり構えろ! 槍を落とすな!」
混乱しつつも兵士たちはリュキーノスの言葉に従います。