「そうはおっしゃいましてもね。このようすではしばらく地上で暮らさなければならないでしょう。差し当たって、今夜の宿はどうするおつもりですか? 野宿ですか? そのようなお小さいおからだでは危ないですよ。そうでなくても人の体は脆いのです。お体を壊されては何もできなくなりますよ」
「ううむ……」
「あの者は口は悪うございますが親切者なようです。リンゴをかたにされたようで屈辱ではありましょうが、これも縁と考えて軒先ぐらい借りられた方がよろしいのでは?」
「むむむ……」
「ね? 戻りましょうよ」

「…………」
 相変わらず難しい顔をしたまま女神さまは動こうとはされません。
「女神さま……実はさっきから思ってたのですが、よもや道に迷われたなどということは……」
「ばかを申すな!」
 威勢よく立ち上がって女神さまは腰に手を当てます。
「わらわはうるわしの守護神。この街を毎日毎日見守っておるのじゃぞ。この街のようすは目をつぶっていてもわかる」
「で、ですよね……」

 そのままの勢いで歩き始めはしたものの、どう見ても迷子になってるとしか思えません。一度広場に出た方が良いのでしょうが、それすらもできないごようすです。
 なにせ住宅区の狭い路地は網の目のように入り組んでいます。比較的広い路地でも繋がってはいないのです。天上からご覧になっているのと、こうして地に足をつけているのとではまったく違うはずです。

 うろうろ歩き回っている間に影が長くなってきます。女神さまは黙り込んだままですが、おからだもさぞお疲れのことでしょう。
 度重なる不遇の出来事に女神さまは意固地になっていらっしゃるようですが、そろそろ手助けした方が良いようです。道を教えて差し上げるくらいどうということもないでしょう。

 わたしが飛び上がって道を探しに行こうとしたとき、声がしました。
「おい、ちんちくりん。こんなとこで何してる?」
 明るい金髪を西日に透かして、テオが立っていました。




「エレナの手伝いは? 家のことだって仕事は山ほどあるだろうに」
 くっと唇を噛んで黙ったままの女神さまの腕をつかんで、テオは自分の家に帰りました。

「おかえりなさい」
 中庭ではエレナと他に三人の子どもが夕食の支度をしていました。
「あ……よかった。その子、見つかったんだね」
 胸をなでおろすエレナの言葉にテオが目を光らせます。
「おまえ、逃げたのか?」