「ああ、腕には自信がある。だからこっちも主人は選びたいんだ。あんたは奴隷を殺さないって有名だってな。どんな人格者かと思ってたが、まだ若くてびっくりしたぜ。今度の戦が初陣だったりするんじゃないか? だったらオレが守ってやるぜ」
「おれは人格者なわけじゃない」
眉間に皺を寄せながらミマスの言い分を聞いていたテオは、重々しく息を吐き出して答えました。
「奴隷が死なないよう配慮するのはその方が効率が良いからだ。不慣れな人間に無理をさせれば事故が起きるのは当たり前で、だったら少しずつ慣らして危険を熟知した人間に長く無理せず続けさせた方が手際だって良くなるのに、頭の固い連中はそれがわからないんだ。おれは実利が大きいやり方を選んでるだけだ。戦については……」
エレナが不安そうに息をひそめてテオの背中を見ています。
「おれは出征に志願する気はない。今回は隣との小競り合いで大規模なものじゃない。強制召集はないだろう。もちろん従者を雇うつもりはない。他をあたってくれ」
うつむきかげんに淡々とテオは話します。すげなく断られたというのに、ミマスは鷹揚に頷いていました。
「そうかい。でもまあ、気が変わったらいつでも言ってくれ。オレは引き受けてやるから」
「気なんか変わらない」
「そうかな?」
妙に人懐っこいいたずらっぽい調子でミマスは青い瞳を光らせます。
「……ハリの面倒を見てくれてることには感謝してる」
「あ? まあ、それは趣味みたいなもんだからな。出征までの暇つぶしだ」
言いたいことだけを言い、控えめに食事に誘ったエレナに手を振ってミマスは踵を返しました。
「おじさん、城門まで送るよ。この辺迷いやすいんだ」
「大丈夫だ。オレは一度通った道は忘れない」
言葉通り、迷うようすもなく路地を早足で歩き去る姿を、テオは憮然と見送っていました。
「あの子たちの外套、素敵ね。わたしもあんなふうに敷物を織ってみようかしら」
「そんな、有り合わせの糸で作ったからああなったのですよ」
「だとしても配色が良いわ。あなたはやっぱり美的感覚が鋭いのよ」
アルテミシアに褒められてエレナは頬を赤くしています。
大祭の後、嫁入り準備の合間の息抜きと称しアルテミシアは家を抜け出してここにやって来るようになりました。もちろんテオは良い顔をしませんでしたが、エレナが字を教えてほしいとアルテミシアに頼んだことから、口に出しては何も言わなくなりました。
今もふたりは並んで蝋板を覗き込み、エレナは真剣に尖筆で綴りを練習しています。
「おれは人格者なわけじゃない」
眉間に皺を寄せながらミマスの言い分を聞いていたテオは、重々しく息を吐き出して答えました。
「奴隷が死なないよう配慮するのはその方が効率が良いからだ。不慣れな人間に無理をさせれば事故が起きるのは当たり前で、だったら少しずつ慣らして危険を熟知した人間に長く無理せず続けさせた方が手際だって良くなるのに、頭の固い連中はそれがわからないんだ。おれは実利が大きいやり方を選んでるだけだ。戦については……」
エレナが不安そうに息をひそめてテオの背中を見ています。
「おれは出征に志願する気はない。今回は隣との小競り合いで大規模なものじゃない。強制召集はないだろう。もちろん従者を雇うつもりはない。他をあたってくれ」
うつむきかげんに淡々とテオは話します。すげなく断られたというのに、ミマスは鷹揚に頷いていました。
「そうかい。でもまあ、気が変わったらいつでも言ってくれ。オレは引き受けてやるから」
「気なんか変わらない」
「そうかな?」
妙に人懐っこいいたずらっぽい調子でミマスは青い瞳を光らせます。
「……ハリの面倒を見てくれてることには感謝してる」
「あ? まあ、それは趣味みたいなもんだからな。出征までの暇つぶしだ」
言いたいことだけを言い、控えめに食事に誘ったエレナに手を振ってミマスは踵を返しました。
「おじさん、城門まで送るよ。この辺迷いやすいんだ」
「大丈夫だ。オレは一度通った道は忘れない」
言葉通り、迷うようすもなく路地を早足で歩き去る姿を、テオは憮然と見送っていました。
「あの子たちの外套、素敵ね。わたしもあんなふうに敷物を織ってみようかしら」
「そんな、有り合わせの糸で作ったからああなったのですよ」
「だとしても配色が良いわ。あなたはやっぱり美的感覚が鋭いのよ」
アルテミシアに褒められてエレナは頬を赤くしています。
大祭の後、嫁入り準備の合間の息抜きと称しアルテミシアは家を抜け出してここにやって来るようになりました。もちろんテオは良い顔をしませんでしたが、エレナが字を教えてほしいとアルテミシアに頼んだことから、口に出しては何も言わなくなりました。
今もふたりは並んで蝋板を覗き込み、エレナは真剣に尖筆で綴りを練習しています。