「おじさんさ、しばらく街にいるんだろ?」
「城市(しろまち)には入らない。城壁の内で寝泊まりするのは性に合わないからな。兵士の招集が始まるまではここですごすつもりだ」
「じゃあさ、おいら明日も来るから弓を教えてくれないかい? ダメ?」
少し怯えるように窺うハリに男は快く頷きます。
「いいぞ。良い枝が見つかれば弓もつくってやろう」
「え、ほんとに!」
「長弓の材料を探すついでだからな。おまえに作ってやるのは使い捨ての簡単なものだ。だから修理や補強は自分でするんだぞ」
「教えてくれたら、おいら頑張る!」
腰かけていた岩から立ち上がりハリはこぶしを握ります。
「ところで、おじさんの名前は?」
「名前か? そうだな、ミマスとでも呼んでくれ」
妙な顔をするハリに男も困ったように顔をしかめます。
「オレの名前は言いにくいらしくてな、以前こっちの人間にそう呼び名を付けられた」
「わかったよ。ミマスおじさん。じゃあ、明日からよろしく」
翌日からハリは弓の稽古に励んでいるようでした。自分用の小さな弓を作ってもらい、でもまだまともに矢を飛ばせないのだとこぼしつつも楽しそうでした。
「おい、おまえ。わらわを好きになったか?」
「ごめんよ、今日はお菓子がないんだ」
女神さまはといえば、出会う男性たちにあいさつのように尋ねて回る毎日です。ですが当然のごとく愛は見つかりません。
「愛は落ちてはおらんか」
「あたりまえですよ」
どうにも女神さまは惰性的で本気のようには思えません。そろそろ気づいてもらいたいです。御自分が好きな相手を見つければいいのだということに。
太陽が天空にいる時間が短くなってくるのを感じ始めたある日、ハリがミマスと共に家に帰ってきました。
「なんじゃ、城内には入らないとか言っておいて」
「ケガさせちまったんでな。保護者に詫びねばと思って。仕方なくだ」
からかう女神さまにミマスは憮然と応じます。ハリが手をあてている腕には大きな切り傷ができていました。弦が切れでもしたのでしょうか。さいわい深く傷ついてはいないようです。
中庭で食卓の準備をしていたデニスやミハイルが興味津々でミマスの姿に見入っています。
「おれがハリの保護人だ」
子どもたちの後ろから名乗りをあげたテオに向かい、ミマスはにやりと口角を上げました。
「あんた、銀山のテオフィリスだろ。オレを雇わないか」
自己紹介と謝罪をすませた後、ミマスは藪から棒に切り出しました。
「傭兵のあなたをか?」
「あんたも出征するだろ? オレが付いていれば必ず生きて帰れるぜ」
「おれは弓兵を従者に雇える身分じゃないし金もない。腕がいいなら騎士の家をあたればいい」
「城市(しろまち)には入らない。城壁の内で寝泊まりするのは性に合わないからな。兵士の招集が始まるまではここですごすつもりだ」
「じゃあさ、おいら明日も来るから弓を教えてくれないかい? ダメ?」
少し怯えるように窺うハリに男は快く頷きます。
「いいぞ。良い枝が見つかれば弓もつくってやろう」
「え、ほんとに!」
「長弓の材料を探すついでだからな。おまえに作ってやるのは使い捨ての簡単なものだ。だから修理や補強は自分でするんだぞ」
「教えてくれたら、おいら頑張る!」
腰かけていた岩から立ち上がりハリはこぶしを握ります。
「ところで、おじさんの名前は?」
「名前か? そうだな、ミマスとでも呼んでくれ」
妙な顔をするハリに男も困ったように顔をしかめます。
「オレの名前は言いにくいらしくてな、以前こっちの人間にそう呼び名を付けられた」
「わかったよ。ミマスおじさん。じゃあ、明日からよろしく」
翌日からハリは弓の稽古に励んでいるようでした。自分用の小さな弓を作ってもらい、でもまだまともに矢を飛ばせないのだとこぼしつつも楽しそうでした。
「おい、おまえ。わらわを好きになったか?」
「ごめんよ、今日はお菓子がないんだ」
女神さまはといえば、出会う男性たちにあいさつのように尋ねて回る毎日です。ですが当然のごとく愛は見つかりません。
「愛は落ちてはおらんか」
「あたりまえですよ」
どうにも女神さまは惰性的で本気のようには思えません。そろそろ気づいてもらいたいです。御自分が好きな相手を見つければいいのだということに。
太陽が天空にいる時間が短くなってくるのを感じ始めたある日、ハリがミマスと共に家に帰ってきました。
「なんじゃ、城内には入らないとか言っておいて」
「ケガさせちまったんでな。保護者に詫びねばと思って。仕方なくだ」
からかう女神さまにミマスは憮然と応じます。ハリが手をあてている腕には大きな切り傷ができていました。弦が切れでもしたのでしょうか。さいわい深く傷ついてはいないようです。
中庭で食卓の準備をしていたデニスやミハイルが興味津々でミマスの姿に見入っています。
「おれがハリの保護人だ」
子どもたちの後ろから名乗りをあげたテオに向かい、ミマスはにやりと口角を上げました。
「あんた、銀山のテオフィリスだろ。オレを雇わないか」
自己紹介と謝罪をすませた後、ミマスは藪から棒に切り出しました。
「傭兵のあなたをか?」
「あんたも出征するだろ? オレが付いていれば必ず生きて帰れるぜ」
「おれは弓兵を従者に雇える身分じゃないし金もない。腕がいいなら騎士の家をあたればいい」