「一度神殿に戻るんだ。逃げ出したままなわけにはいかないだろう。聖衣を持ち出した理由もうまくとりつくろわないと」
「でも……」
「大丈夫だ。おれも行く。悪いようにはしないから」
「……」
こっくり頷いてアルテミシアはテオに従いました。
「さ、ファニ、ポロ。手伝って」
エレナに促されて踵を返した女神さまのお顔の色は、少し悪いように感じました。それはそうです。わたしもテオのあの言葉には、胸が冷えるような心地がしましたから。
日が傾き始めた頃、篭いっぱいに色とりどりの糸を抱えて三人の子どもたちが戻ってきました。使い残しをかき集めてきたという風で、麻と羊毛が交ざっています。その中から麻の細い糸をよりわけて、エレナはじっと思案します。
「こんなに色が不揃いではどうにもならないのではなくて?」
幾分落ち着いたとはいえ、やはり悲観的なことをアルテミシアがこぼします。
「大丈夫です」
それでもエレナは強気でした。皆が見守る中、指を伸ばして地面に波型の文様を書いて見せます。
「ずうっと以前、絵が主流ではないころは、壺には文様が全面に描かれていたそうです。この文様は布地にもよくありますよね」
「ふつうは端に一本とか二本だけど」
「でもこの裾になる部分に入っていてもおかしくないですよね? 単一のこんな縞模様なら糸を代えるのは簡単ですよね」
「……そうね。杼(ひ)に糸を準備しておけばつなげるのは簡単だわ。でも、こんな多彩でどんな仕上がりになるやら」
「良いのじゃないか? 鮮やかで。女神の美貌にはさぞ映えるじゃろうて」
「よし。ハリ、デニス。近所を回って空いてる杼を借りてきてくれ」
「了解!」
再び元気よくハリとデニスが飛び出していきます。ポロとミハイルがさっそくあるだけの杼に糸を巻き始めます。
エレナとアルテミシアが既に織機に張ってある経糸(たていと)の確認をしました。
「もう日が落ちるぞ」
「でもまだしばらくは明るいし。星明りでも十分見えます。できるだけ進めましょう」
「そうね」
エレナの言葉にアルテミシアも同意します。織物は女性の職分です。アルテミシアのように裕福な家の娘ならなおさら、織物の腕が問われるのです。事ここに至ってアルテミシアはようやく腹を決めたようでした。
「でも……」
「大丈夫だ。おれも行く。悪いようにはしないから」
「……」
こっくり頷いてアルテミシアはテオに従いました。
「さ、ファニ、ポロ。手伝って」
エレナに促されて踵を返した女神さまのお顔の色は、少し悪いように感じました。それはそうです。わたしもテオのあの言葉には、胸が冷えるような心地がしましたから。
日が傾き始めた頃、篭いっぱいに色とりどりの糸を抱えて三人の子どもたちが戻ってきました。使い残しをかき集めてきたという風で、麻と羊毛が交ざっています。その中から麻の細い糸をよりわけて、エレナはじっと思案します。
「こんなに色が不揃いではどうにもならないのではなくて?」
幾分落ち着いたとはいえ、やはり悲観的なことをアルテミシアがこぼします。
「大丈夫です」
それでもエレナは強気でした。皆が見守る中、指を伸ばして地面に波型の文様を書いて見せます。
「ずうっと以前、絵が主流ではないころは、壺には文様が全面に描かれていたそうです。この文様は布地にもよくありますよね」
「ふつうは端に一本とか二本だけど」
「でもこの裾になる部分に入っていてもおかしくないですよね? 単一のこんな縞模様なら糸を代えるのは簡単ですよね」
「……そうね。杼(ひ)に糸を準備しておけばつなげるのは簡単だわ。でも、こんな多彩でどんな仕上がりになるやら」
「良いのじゃないか? 鮮やかで。女神の美貌にはさぞ映えるじゃろうて」
「よし。ハリ、デニス。近所を回って空いてる杼を借りてきてくれ」
「了解!」
再び元気よくハリとデニスが飛び出していきます。ポロとミハイルがさっそくあるだけの杼に糸を巻き始めます。
エレナとアルテミシアが既に織機に張ってある経糸(たていと)の確認をしました。
「もう日が落ちるぞ」
「でもまだしばらくは明るいし。星明りでも十分見えます。できるだけ進めましょう」
「そうね」
エレナの言葉にアルテミシアも同意します。織物は女性の職分です。アルテミシアのように裕福な家の娘ならなおさら、織物の腕が問われるのです。事ここに至ってアルテミシアはようやく腹を決めたようでした。