第一話

神坂蒼空は自分の生活に満足していなかった。
憧れのアパレル業界に就けたものの、待っていたのは雑用ばかり。
「私が思い描いてた未来はこんなのじゃない!!」
そう叫んだ次の日、見知らぬ世界に転生していた。
「可愛い!!その服!!」
道端で倒れていたらしい蒼空を拾ってくれたのはミューナという美少女だった。
ミューナは蒼空の服を見てそう言った。
「リオーナ、その服どこで手に入れたの?」
服のタグについていた「リオーナ」という服の会社の名前をミューナは勘違いしてそう呼んだ。
蒼空、改め、リオーナは「違う世界から来た」ことを伝え、ミューナからこの世界の色々なことについてたくさん教えてもらう。
「…あとね、服の色が黒一色だけなの。リオーナが来ているようなそんな服はどこにもないの」
リオーナは衝撃の事実を知る。


第二話

リオーナの常識では考えられないその事実に驚いていると、家の中に誰かが入って来た。
ミューナの兄のヒューマであった。
リオーナは違う世界から来たことをヒューマにも伝え「服の色が一色しかないのはなぜか」をヒューマに問いかける。
「黒なんていったら、人を弔う時の恰好じゃない」
リオーナのその言葉に、ヒューマは
「そうかもしれないな」
と今にも泣きだしそうな笑顔でそういった。
そして、リオーナに三年前、この地域を襲った大災害について教えた。
たくさんの人が犠牲になったこと、その中に自分たちの両親が含まれていたこと。
「オレらの世界のこの常識は、あの大災害で亡くなった人たちを弔う気持ちから来てんのかね?」
ヒューマの話が終わって、リオーナはずっと思っていたことを口にする。
「私がその空気を風習を吹っ切る。私が、世界に色を灯す!」
兄妹は驚いたような顔をして、そして、にっこりと笑った。


第三話

リオーナが口にしたその革命のような目標について計画を立て始める。
服の作り方については、リオーナの前世の知識と、ミューナの本から得たこの世界での服の作り方の知識をもとに進めることを決意。
服のデザインに関しては、リオーナが前々から考えていたアイデアを採用することに。
どんどん計画が大きくなる中、費用が絶望的に足りないことに気づく。
せっかく進んでいた計画が水の泡になりそうなその時、
「王様に頼んでみるのはどうだ?資金援助を」
ヒューマがそう言った。
王様を巻き込むなんて、とリオーナは思っていたが、ヒューマは友達だから大丈夫!とリオーナを安心させる。
次の日、城を訪ねると、目つきの鋭い、怖そうな王様がいた。
「僕達だけにしてくれないか」
と家来に言いつけ、リオーナ達三人と王だけになった空間で沈黙が流れる。
「…もうやだ、聞いてよヒューマぁ」
といいながらヒューマに抱き着いて永遠と愚痴を言いまくる王様に若干引きながらも、リオーナは計画について話し始める。
服の色が一色しかないのはおかしい、私たちが世界に色を灯す、けど費用が足りない。
私達が考えたことを一つも隠さず正直に話した。
一通り話し終え、王の反応を見ると、さっきみたあの目つきの鋭い方に戻っていて
「それは本当に正しいことなのか?」
と問われる。
「そんなことをして、本当に世界の得になるのか?」
リオーナは間髪入れずこう答える。
「服には人を変える力がある。私が保証する。世界は服が変わることでもっと楽しくなる」
リオーナの堂々とした答えに、王は資金援助を約束すると答えた。
計画が一歩進んだ。


第四話

「本格的に計画を始める前に、試作品を作ってみるのはどうかしら。人の反応も気になるし。」
ミューナの提案に賛成し、試作品を作ることに。
試作品のモデルはミューナ、ヒューマ、そして国王の弟のリーマ。
ミューナとヒューマのデザイン案はすぐに決まったが、リーマのデザインだけなかなか決まらない。
かっこいいのがいいのか、フォーマルな感じがいいのか。
たくさんの案をリーマに出すが、リーマは首を横に振るだけであった。
これ以上男の子用のデザインは思いつかない、と思ったとき、自分が“性別”に囚われてデザインを描いていたことに気づく。
中世的なデザイン案と女のこっぽいデザイン案をリーマに見せると、苦しそうに首を横に振った。
「正直になっていいんだよ。服は自由でいいんだよ」
リオーナの言葉にリーマは中世的な服のデザイン案を指さした。
「私がリーマが望むものを作ってあげるね」
というとリーマは泣きだし、今まで我慢してきたものを吐き出すように、大きな声で泣いた。



第五話


試作品が完成し、三人にとても気に入ってもらえて大満足のリオーナ。
しかし、なぜか王様から呼び出しをくらう。
前みたいに冷たい沈黙に包まれる。
先に口を開いたのは王様だった。
「リーマが、久しぶりに笑ったんだ」
ぶっきらぼうな性格で、元からあまり笑わない子だったが、三年前のあの大災害で両親を亡くし、ピクリとも表情を崩さなくなったリーマが笑った。
リオーナが作った服のおかげなんじゃないか、と王は思ったらしい。
リオーナは答える。
「私はきっかけをつくっただけにすぎませんよ」
王は笑った。
そして言った。
「〝服には人を変える力がある〟と前に言ってたな。あれは本当だったんだな。ヒューマみたいに人を信じて疑わない性格じゃないから、どうしても信じられなかった。こういうことだったんだな」
引き続き頑張ってくれ、応援している。
王からのその言葉をうけ、リオーナはルンルンで城を後にした。