鈍色の亡霊

 昼食を()り終えた二人はそれぞれの業務に戻っていった。
 雄哉は自分の会社に戻り、さくらも自分の部署へと戻る。
 しかしさくらは、昼食を終えた後から雄哉の顔がちらつき、珍しく業務に集中できないでいた。さくら自身はそのことを意識していなかったのだが、明らかに仕事の効率が悪い。
 その原因がさくらには分からないまま、珍しく残業をするのだった。
 さくらは残業を終えると、実家近くに借りたひとり暮らし用のアパートへと戻った。
 なんだか今日は、どっと疲れた気がする。
 さくらは荷物をいつもの場所に置き、着替えを済ませるとスマートフォンをカバンから取り出した。そこで始めて通知が入っていることに気付いた。
(何だろう?)
 仕事の連絡かもしれないと思ったさくらは、ゆっくりした手つきでスマートフォンのロックを外す。そこで初めて、雄哉からメッセージが届いていたことに気付いた。
(あ……)
 雄哉の名前を見たさくらは、そこでようやく今日の、調子の悪さの原因に気付いた。
 雄哉と別れてから、さくらは無意識下で雄哉のことを考えていたのだ。
 いや、雄哉の様子から連想される、(だい)(すけ)のことを考えていた、と言っても過言ではないだろう。
(私、まだ……)