二人の通話の空気が一気に重くなった。
 さくらは久しぶりに聞いた『(だい)(すけ)』と言う名に、胸の痛みを少し感じていた。
『今度、合コンとかじゃなくお茶でもしよう!』
 場の空気を変えるかのように、菜月は明るい声で提案した。菜月のその思いやりに、さくらは救われる。それから少し(ほお)を緩めながら、
「そうだね。お茶、しよう」
 さくらの声音が少し明るくなったのを感じたのか、菜月もホッとしたような声音で、
『じゃあ、また連絡する』
 そう言って、通話を切った。
 通話の切れたスマートフォンをパンツスーツのポケットにしまい、さくらは昼食の続きを()り始める。しかしその頭の中は、久しぶりに聞いた名前でいっぱいになっていた。
(だい)(すけ)くん……)
 さくらの心を占めているその名を、さくらも何年ぶりかに心の中で(つぶや)く。しかしその声に答える声は返っては来なかった。
 さくらはふるふると左右に頭を振ると、こびりついているその名前を振り払う。
(仕事、集中しないと)
 そう自分に言い聞かせ、さくらはなんとか気持ちを切り替えていくのだった。