そうしてそのまま月日は流れていった。
　さくらは雄哉の名刺をしまったまま、日々の業務に忙殺されていた。
　そんなある日。
「前田くん、ちょっといいかね？」
　さくらは上司である近藤から呼び出された。
「なんでしょうか？」
「実は、今日、十時から客が来ることになっているんだ。出迎えの準備と、打ち合わせに同席してくれないか？」
「分かりました」
　さくらはすぐに了承すると、詳しい話を近藤から聞き、打ち合わせに必要な資料作成へと入って行く。
（あれ？　この会社……）
　資料を作成中にさくらは今回の打ち合わせ先になる会社に見覚えがあるような気がした。しかしどこで見たのか思い出せない。
（まぁ、近藤さんのことだから、大事な取引先に違いはないか）
　さくらはそう思い直すと、十時までの資料作成を急いで行うのだった。
「こんにちは！」
　打ち合わせのある、十時前。
　さくらのいるオフィスの外から元気に声がかかった。さくらはその声に聞き覚えがあった。
「あ、山下さん……」
　そこでさくらは、以前別れ際に連絡して欲しいと雄(ゆう)哉(や)から言われていたことを思い出した。
（ヤバ……）
　内心、少し焦ったさくらだったが、
「こんにちは、山下さん。近藤さんとの打ち合わせですよね？」